「連れてきましたで〜」
「ご苦労様」
「……何すか」

 事前の情報通り、無愛想だな。
 ま、優秀な人材であれば、少なくとも私に対しては敬語でなくても構わない。大して気にもならないしな。
 社会に出た時には問題はあるかもしれないが、それは本人がこれから身に付けていけばいい事だろう。

「早速だが、生徒会メンバーになってもらいたい。現在決まっているのは、会長と副会長が私達で継続。書紀に山吹だ」
 簡潔にそう言うと、浅葱は僅かに目を瞠り、山吹を見た。
 やはり喰い付いたな。
「……太陽も?」
「おう、さっき引き受けたトコや」
「そう。……じゃあ会計で」
「決まりだな」
「じゃ、そういう事で」
 用が済むと、浅葱はさっさと教室へ戻って行く。

 ……本当に極端に人と関わろうとしないんだな。
 面倒臭いのか、煩わしいのか……だがああいうタイプは一度心を開いた相手とは、深く付き合うからな。
 生徒会に慣れれば態度も変わってくるだろう。

「じゃあ、よろしゅう頼んますわ。……星、俺を置いてくなやっ」
 そうして山吹も行ってしまい、後に残ったのは私と弓近。
「……琴音。何なんだ、あいつら」
「ん?山吹は高等部からの外部生。両親の仕事の都合で小さい頃からあちこち引越ししてて、妙な関西弁はその影響だろうな。流石に高校は寮のあるココに入ったらしい」
 親の都合で各地を点々としているような者が、大学受験を視野に入れて一ヶ所に留まるには、寮のある学校に入るのが一番都合がいいからな。
 そういう生徒はごく稀にいるし。
「浅葱も高等部からの外部生だ。こいつは極端に他人との接点を持たなくて、ルームメイトの山吹とだけは親しいんだ。結構二人でつるんでるから、山吹を先に勧誘すれば、 浅葱も入ると思ってな」
 ま、もしこの場で浅葱が断ったとしても、どうせ後で山吹がしつこく勧誘するのは目に見えているからな。
 賢い判断と言えるだろう。
「さて、後は若竹だな」


 そうして呼び出した若竹満月は、実際に見ると写真よりも可愛らしい子だな、というのが私の感想だった。
「あの、私……生徒会とかそういうのはちょっと……」
 人前に出るタイプではないのは知っていたが、思ったよりも引っ込み思案な彼女が、果たして喰い付くかどうか……。
「他のメンバーを言ってなかったな。会長と副会長は継続。書紀に二年の山吹太陽、会計は同じく二年の……」
 私はもったいぶるように一旦そこで言葉を止める。
 ま、大丈夫だろうな。
 そう思って自然と口角が上がる。
「浅葱星だ」
 すると彼女は、それまでの申し訳なさそうな態度とは打って変わって、半ば興奮するように聞いてきた。
「浅葱って、あの浅葱君ですかっ!?や、やります!私、生徒会入ります!書紀やらせて下さいっ!」
「……そう言うと思った」
 小声で呟き、心の中でガッツポーズをする。

 しかしまぁ……必死になって、ますます可愛らしいなぁ。
 ……やっぱり、弓近もこういう可愛らしい子が好みだったりするんだろうか?

「じゃあよろしく頼む」
「はいっ!ありがとうございました!」
 そう言って頭をキチンと下げて、若竹は教室に戻って行った。


 一通り決まって、ようやく私はホッとする。
 これで何とか間に合ったな。
「さて、これで全員決まったな。後は先生に報告して……」
「ちょっと待て。聞きたい事がある」
「ん?若竹がいきなりやるって言い出した事についてか」
「や、それは聞かなくても分かるから。どうせ浅葱の事が好きだとかそういうんだろ?」
 まぁ、あの反応を見れば誰だって分かる事か。
「俺が聞きたいのはそういう事じゃなくてだな。あいつらが使える奴らなのかって事だ!」
 そういえば、弓近に見せた資料には成績とかそういったものまでは書いてなかったからな。
 疑問に思うのも無理はないか。
「ああ、それなら心配いらない。三人とも学年で上位の成績だ」
「……成績だけじゃダメだろ」
「まぁな。……山吹は企画発案・実行に長けていて、浅葱は暗算検定の段位持ち。若竹は企画書作成が得意だ」
「……どこでそんな情報……って聞くだけ野暮か……」
 ちなみにここでいう企画というのは、文化祭とかクラス内行事とか、そういう物の事を指している。
「面白そうだろう?」
「……そうだな」

 六月に就任し、一ヶ月の引継ぎ業務を経て、七月から本格的に活動する生徒会新メンバー。
 今から楽しみだ。