……なんて叫んでみた所で、今更遅い。
 何故なら、あれから月日は流れて現在高校三年生。
 琴音はすっかり人気者だし、彼女にとっては日常になんら不都合はないと言えるだろう。
 だから今更、あの発言を取り消す事はないに等しい。
 俺はただただ、深く溜息を吐くより他になかった。

 もし、今の琴音に告白をしたらどうなるか。
 それはこの俺が一番身近で見て、よっく分かってる。

 まずは玉砕確実。
 基本、琴音が校内を一人で歩く事はないから……というより、常に誰かが周りにいる状態なので、告白したやつが琴音に近づく事はもう出来ないだろう。
 琴音自身ではなく、周りの人間が排除するから。


 琴音はまず、告白の呼び出しには一切応じない。
 手紙の場合は一応中身を読んで、呼び出し場所や時間に関係なく、直接本人に用件を聞きに行く。
 名前の書いていないものに関しては、完全に無視だ。
 直接の呼び出しに関しても同様だ。

 そうして今日も、バカが一人。

「月羽矢。ちょっといいか?」
「何だ?」
「いや、ここじゃ、その」
「皆の前で言えないような事か?告白以外なら応じるぞ」
 大抵のやつはここで怯んで、すごすごと帰るのだが。
 今日のやつは違っていた。
「好きなんだ。お前が公言している事については知ってる。だけど、どうしても好きなんだ。俺じゃ、ダメか?」

 勇気あるな、と思った。
 だって俺は、琴音の一番近い場所にいる事を、選んだから。
 琴音が口を開く。いつものように。

「悪いな。私は自分の発言をなかった事にしたくはないんだ。無責任な事はしたくないからな」

 この言葉を言う時、いつも琴音は辛そうな表情をする。
 それが何なのか、俺には分からない。
 相手の好意を受け取れない事に対して心を痛めているのか。
 “誰とも友達以上にはならない”と公言をしても尚、まだ告白してくる輩がいる事に対するものなのか……。

 考えてる途中で、琴音から声が掛かる。
「弓近。生徒会室に行くぞ。執務が溜まってる」
「……おう」
 琴音は誰かに告白されると、大抵生徒会室に行く。
 そうして、無心で執務をするんだ。
 まるで、気持ちを紛らわすかのように。

「なぁ、弓近」
「ん、何だ?」
「悪いな、いつも付き合わせて」
「別に?俺は副会長。会長の補佐だからな」
「そうか……そうだな」


 こういう時、いつも考える。
 もし俺がここで告白したら、琴音はどう反応するんだろうか?
 やっぱり、いつもと同じ言葉を言って。
 いつもと同じように、だけど一人で、こうして執務をするんだろうか?
 と。

 答えは、分からない。