琴音は男女問わず人望がある。
 気さくだし、口は堅いし、頭だっていい。
 皆の面倒を見るお姉さんタイプというか、姉御というか……。
 てか、一部の女子からは「お姉様〜っ」とか言われてるし。

 何故こんな事を言うのかというと。
 琴音を呼び出すのは、何も告白してくるヤツだけじゃないからだ。


「月羽矢、ちょっと……」
「何だ?」
「情報交換」
 その言葉に、琴音の眉がぴくっと動く。
 ある意味この言葉は琴音にとって暗号のようなもの。
「分かった。弓近、お前も来い」
 だがそう言って、用心には用心を重ねる所が何とも琴音らしい。

 情報交換というのは、言葉の通りの意味だ。
 琴音は生徒個人の情報を人よりも持っている。
 だから、告白したい生徒なんかがしょっちゅう来ては、好きな子の好みや何かを聞いてくるのだ。
 その代わり、自分の知ってる情報を琴音に教える。

 琴音は流石にメルアドとかの個人情報は教えないが、誰でも知ってるような情報を教える。好みとか性格とか。
 そんなもの、本人か周りの友達から聞けよ、とか思わないでもないが、そういうのは下手すれば、告白前に玉砕、なんて事にもなりかねない。

 例を挙げて言うなら。
『○○君て、△△さんの事、好きらしいよ?だって好きなものとか聞かれたもん』
『えーあの人ちょっと微妙。ねぇ、△△さんどう思う?告白されたら付き合ったりする?』
『えっと……断る、かな』
 といった具合だ。

 人なんて、いいなって思ってる相手でも、事前に誰かに貶されたりからかわれるように噂されれば、大抵が思わず断る傾向にある。
 しかも、その会話をこれから告白しようと思ってる人間が聞いてみろ。告白できなくなるだろう。
 逆に人気のあるやつが誰かに告白しようとしてるのがバレてみろ。
 間違った情報を与えられて阻止される確率の方が高くなる。


 とにかく、琴音の情報を元に告白してカップルになったやつは結構いる。
 琴音は新しい情報を手に入れられるし、一石二鳥。
 ただ、用心の為に第三者である俺を連れて行くのが琴音のやり方だ。
 それは男も女も変わらない。

 情報交換自体は、ある意味プライバシーだから人気のない所に行く。
 そこでもし、実は告白目当てでしたってヤツが告白して、振られた事で襲ってこないとも限らないし、待ち伏せの可能性だってある。
 琴音の場合、告白してくるのは男だけではないからな。
 つまり俺は、いざという時の為の牽制。
 二人きりにならなければ、取り敢えず安全って事だろう。


 そこまで信頼されてる俺は、喜んでいいのか?
 それとも、幼馴染だから全く男として見られてないとか!?
 唯一琴音と二人きりになれるのは俺だけなんだが……はぁ。