暫くして落ち着いた所で、俺は顔を洗って皆の所へ戻る。
 あんまり長く席を外してても心配させるだろうし、何と言っても今は生徒会主催のイベント真っ最中だからな。

 だが。
 戻ってみると、琴音の姿が見えなかった。
「……琴音は?」
「あ……現状の確認をしてくるって……弓近先輩が出て行った後、すぐに……」
 恐らくは、各中継地点を担当している先生方に内線電話で状況を確認しているのだろう。

 ……だけど、俺が席を外してたのは数十分。状況確認するにしても、そんなに時間は掛からないと思うんだが……。
 やっぱり、俺があんな態度を取ったから、琴音も何か思う所があるんだろうか?
 それに、何だか場の空気も重い。
 これはかなり気を遣わせてるって事なんだろうな……。

 そんな風に考えていると、太陽が突然頭を下げてきた。
「すんまへん、先輩!俺、なんや余計な事してもうたみたいで……」
「太陽……気にするな。遅かれ早かれ、いずれは知る事になってた事だ。だから、別にお前が気に病む必要はないぞ?」
 努めて明るくそう言ってやるが、太陽の表情は歪んだままだ。

「……前々から決まっていて、それでも琴音は俺に何も話さなかった。つまりそれは、この先も俺に話すつもりはなかったって事だ。だから、むしろ良かったんだよ」

「せやけど……」
「なぁ。お前ならどっちがいい?見合いして、婚約した後に事後報告されるのと」
「それ、は……」
「俺は後から言われる方がショックだな。事前に知ってれば、多少なりとも心構えが出来る。……そういう事なんだよ」
「弓近先輩……」
 太陽の表情が幾分か和らいだ事で、満月ちゃんも星も少しだけホッとしたような表情になった。
「それにしても琴音、戻ってくるの遅いな。出て行ってから結構時間経ってるんじゃないか?」
「あ、はい」
「まぁ、トップのチームが来るまでには戻ってくるだろ」
 多分琴音も、一人になりたかったんだろうし。
 今顔を合わせるのは正直俺も辛いから、助かった。

 案の定、それから数分後に琴音は何事もなかったかのように戻ってきて。
 トップチームがゴールしたのはそれから更に数分後の事だった。


 それから数日。
 俺は琴音とまともに口をきかなかった。
 きかなかった、という言い方には多少語弊があるな。
 正確には、そんな暇がなかった、と言うべきか。

 ハロウィン企画終了後は、そのまま翌日から始まる文化祭に向けての最終準備に入って。
 翌日からずっと文化祭の裏方として走り回っているのだから。

 何せ、月羽矢学園の文化祭“月羽矢祭”は、高等部だけの行事ではない。
 初等部・中等部と合同で、学園全体を上げての行事。
 しかも公開行事なので、外来客も多いのだ。
 そうなると当然トラブルも起こる。
 その処理に生徒会及び実行委員の面々は走り回らなければならないのだ。

 そんな訳で、琴音とは口をきく事はおろか、まともに顔さえ合わせていない状況。
 まぁ、今の俺にとっては、この状況は逆に有難かったりもする。
 だって、琴音とどう接すればいいか分からないから。
 いや、いつも通りにすればいんだろう。
 だけど、いつも通りに振舞える自信がない。
 それに俺自身も色々と考える所があるし。
 今となっては本当に、太陽のあの質問はグッドタイミングだったと言えよう。


 そうして数日に渡る文化祭終了後。
 俺はある決心をし、それを行動に移す事にした。