そうして、問題のテストが終了して数日後。
 答案用紙を見た遊菜は言葉に詰まる。
 取り合えず、赤点は無かったし、いつもより点数もいい。

 いいのだが。

 その変化は微々たる物で、これでは折角教えて貰った意味が無い。
 むしろ、わざわざ自分の時間を割いて勉強を見てくれた先輩に申し訳無い。
「よし、黙ってよう」
 取り合えず赤点は無かった訳だし。
 勉強を見て貰ったお礼だけ言って終わらそう。うん。


 なのに。
「甲斐。結果見せて」
「え」
「見せて?」
「いや、でも、あの、赤点は無かった訳ですしっ」
「見せて」
 有無を言わせない強い口調。顔は笑顔なのに〜っ。

「……はい」
 結局逆らい切れずに、遊菜は順位成績表を見せた。
 各教科の点数、平均点、クラス順位と、学年総合順位が一度に分かるそれを見て、葵は暫く無言になる。

 ちなみに今いるのはコンビニの裏手。
 今日は遊菜はバイトではなかったのだが、葵がバイトの日だと分かっていた為、お礼を言いに学校帰りに寄ったのだ。
 すると葵は休憩を取り、今のこの状況、と言う訳だ。

「……」
 結果が分かったからって学校帰りに直で来るのは止めとけばよかったかも。

 ……俺が折角教えたのに、って怒るだろうか?
 それとも、ここまで馬鹿だとは思わなかった、と言って呆れるだろうか?

 もし。
 もしも。
 嫌われてしまったら?

 そう考えると、怖かった。
 もう、あの微笑みが自分に向けられる事が無くなるのだと思うと、堪らなく悲しくなった。

「甲斐」
 静かに名前を呼ばれ、思わずビクッと肩を震わす。

 怒られるか、呆れられるか、嫌われるか。
 いずれにせよ、いい結果でない事は目に見えている。

「いつもと比べてどんな感じ?」
「えと、その、いつもよりは、多少……」
「全教科?」
 遊菜は、審判が下されるのを待つかの如く、コクンと頷いた。

「良かった」
「え」

 それは、全く予想もしていなかった言葉。
「少しは役に立てたみたいだな」
 しかも笑顔で言われ、内心困惑する。
「怒らないん、ですか?呆れたり、その…嫌いになったり、とかも……?」
 恐る恐る、といった感じの遊菜に、葵は優しく言う。
「……甲斐は、どうして俺がそうするって思ったんだ?」
「だって……!折角先輩が、私なんかの為に自分の時間割いて、教えてくれたのに……私は、こんな点数、で……だから……っ」
 今にも泣き出しそうになって言う遊菜の頭を、葵は優しくポンポンと叩く。
「俺はちゃんとした家庭教師じゃないし、元々やるって言い出したのは俺なんだから。甲斐がそんなに気にする事じゃないよ。重要なのは、赤点を取らなかった事なんだから」