な?というように微笑む葵を見て、遊菜の頬に、一筋の涙が流れる。
「どうして泣くんだ?」
 少しだけ困ったように言って、葵は遊菜の涙を指で拭ってやる。
 だが、遊菜は逆に、更に泣き出してしまう。
「甲斐?俺、何かした?」
 流石にこれには葵も慌てる。
 しかし、遊菜は首を横に振った。
「違っ…違うん、です……その、嫌われたらどうしようって思ったら、凄く、怖くて……だから、嬉しくて……」
 両手で顔を覆い、涙を流す遊菜を、葵は優しく抱き締める。
「……先っ輩……!?」
 突然の事に、遊菜は驚いて顔を上げた。

「どうして甲斐はこう……嬉しい反応ばかりしてくれるかなぁ……」
「……え?」
 言っている意味がよく分からなくて、遊菜は首を傾げてしまう。

「だって、嫌われるのが怖くて、でもそうじゃなかったから嬉しくて泣いてる、なんて、それって俺の事、好きだからだよな?」
「!」

 思ってもみなかった……いや、気付かないフリをしていたのかもしれない。
 自分の気持ちを言い当てられ、遊菜は困惑する。

「俺も、ずっと甲斐が好きだった」

 突然の告白に、目の前が真っ白になる。
「……う、そ……」
 喉が渇いて上手く言葉が出てこない。
「本当」

 遊菜は軽く混乱する。
 上手く思考が付いていかない。

 え?
 先輩は、貝が好き?
 あー、アサリの酒蒸しとか美味しいもんねぇ……。

 って違う!
 貝じゃなくて甲斐だ。

 ……甲斐って誰だっけ。
 あ、私か。
 て事は。
 つまり。
 ……どういう事?

「甲斐?百面相してないで落ち着こうか」
「へぁ……?はい」
 葵は、そんな遊菜を優しく包み込むように抱き締め直す。

 あ。
 暖かい。
 何だか凄く安心して落ち着く。
 ……恥ずかしいけど。
 そう思って遊菜は小さくフフッと笑う。

「なぁ甲斐?よければ俺のコイビトになってくれないか?」
 甘く、囁くような、心地良い響きが耳に残る。
「……はい」

 私はきっと、この腕の中からはもう、逃れられない。