「大体、他の部だってマネージャーでもないファンの奴がお茶の差し入れとかしてるし、それと変わらんだろ」
 直樹のその説明に、忠は一度、礼義を睨み付けてから言う。
「じゃあその雑務全部、俺がやりますよ。それならコイツは出入り禁止にできますよね」
「な……!?」
 その発言に礼義は驚くが、直樹はスッと目を細めた。

「お前、何しにココに来た」

 その声は低く、冷淡だった。
「お前の言う入部希望ってのは、マネージャー希望って事か?」
「いえ……でも雑用係が必要なら……」
「その場合、一切弓具には触らせないが、それでもいいのか?」
「はい」
 キッパリとしたその返事に、直樹は一つ溜息を吐くと、道場の外を指差して言い放った。

「帰れ。お前みたいな奴は、ウチの部に必要ない」

 だが忠はその言葉に喰って掛かる。
「はぁ!?どういう意味だよ、ワケ分かんねー!」
「じゃあ聞くが……お前、ココに弓道やりに来たんじゃないのか?それとも何か。ただ単に大好きな姉に悪い虫がつかないよう、監視する為か?」
「……!」
 その指摘に忠はハッとし、直樹はさらに続ける。
「お前が最初からマネージャー希望ならいいさ。だけどお前は、伏見の事を聞いて自分の意見を変えた。そんないい加減な気持ちの奴に部にいてもらっても迷惑だし、 他の真面目にやってる部員に対しても失礼だ。だから帰れ」
「……」
 直樹の言葉は的を射ており、反論が全くできない忠は、悔しそうに俯いた。

 そんな忠を一瞥し、直樹は道場内に向き直ると手を叩きながら指示を出す。
「ほら、部活始めるぞー」
 狭い道場内。どうやら今のやり取りはかなりの注目を集めていたらしい。
 直樹の一言で、それまで静かだった道場内はすぐにざわつき始めた。

 礼義は一礼してから道場内に入ると、入り口で未だに俯いて立ち尽くしている忠に声を掛ける。
「俺、早坂先生が怒ってる所って、初めて見たよ。普段は“生徒の自主性を尊重する”とか言って、放任主義っぽいんだけどな」
 すると忠は八つ当たりするように礼義を睨みつける。
「……何が言いたいんだよ」
「お前に自主性ってある?」
「!」
「お前はまず、一番に智ちゃんがくるだろ。それは別に悪い事じゃない」

 そう、誰かを想う事は悪い事ではない。
 だけど。

「……だけど何でもかんでも智ちゃん本位で決めすぎだ。兄貴の方もな。そうやって二人が干渉すればする程、今度は智ちゃんの自主性を奪う事になる」

 本人の意思にまで干渉するのは、何より本人を否定するのと同じだ。

「……っ」
「後は自分で考えろ」

 忠は暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて静かにその場を去った。