「前にも……いや、何度も言ってるだろう。俺は認めないって」
「……っ」
その固い表情と言葉に、智は深く傷付く。
智にとっては、仁も忠も大事な存在だ。
だけど、同じくらい礼義も大好きで。
なのに認めてもらえない。
それはとても悲しい事だ。
どっちも大切な人なのに。
どっちかだけなんて、選べないのに。
「……じゃあ私は、誰とも付き合っちゃ、いけないの……?」
昔から、そうだった。
近付いてくる男の子は、皆この兄弟二人が遠ざけて。
それは最初から、“誰も認めない”という事なのだろう。
「ねぇ、私はお兄ちゃんの許可がなくちゃ、誰も好きになっちゃダメなの?」
今にも泣き出しそうな表情で智がそう聞くと、仁は多少うろたえる。
「そんな事は言ってないだろ?智、俺はただお前を心配して……」
「私の事、心配してくれるのは嬉しいよ?でも私、そんなに信用ない?私の判断は、全部間違ってるって言うの?」
もうウンザリだった。
幼い頃から過保護にされて。
自分の意思とは関係ない所で、物事を決められていく。
「私の気持ちは、どうでもいいの……?」
自分だって一人の人間だ。
自分の意思がある。
好きな人と一緒にいられれば嬉しいし、その事を反対されれば悲しい。
幼い頃は確かに、家族が世界の全てで。
兄の言う事は全て正しいのだと思っていた。
でも今は違う。
家族と離れて生活して、世界が広がって。
礼義という存在を知って、もっと色々な事を知った。
相手の顔を見るだけで、嬉しくなったり。
一緒にいるだけで、心が温かくなったり。
少しの間逢えないだけで、切なくなったり。
それは、誰かを好きになって初めて知る事のできるもので。
これから先、もっともっと色んな事を知っていきたい。
礼義と一緒に。
それが今の智の、正直な気持ちだ。
だが。
「どうでもいいとは言ってないだろ。俺は奴の事は認めないってだけで……」
なおもそう言う仁に、智はカチンとくる。
「一緒じゃない!礼君の事、何にも知ろうとしないで……」
「智……」
「お兄ちゃんのバカ!……大っ嫌いっ!」
智は目に涙を浮べながらそう言うと、その場から走り去った。
「え、あれ、智!?」
途中忠とすれ違ったが、智は立ち止まる事はしなかった。
「兄貴、今、智が……って兄貴!?どうしたんだよ!」
一方、残された仁は、智に大嫌いと言われたショックから、まるで魂が抜け落ちたかのように呆然と固まったまま、暫く動かなかった。
「一体何があったんだよ……」
一人、事情を何も知らない忠は、そう呟いて溜息を吐いた。