思い切り泣き出したいのを堪えて駅まで来た智は、礼義に電話を掛ける。

 無性に声が聞きたかった。
 逢いたかった。

 呼び出しのコール音すらもどかしくて。
『もしもし、智ちゃん?』
 だから礼義の声を聞いた途端、智は堪えきれずに泣き出してしまった。

「れ…くん……礼君……っ」

『え……ちょ、智ちゃんどうしたの!?何で泣いて……何かあった?大丈夫?』
「逢いたい……っ」
 智がそう言うと、今まで慌てた様子で、電話口から気遣うような言葉を掛けていた礼義が、しっかりとした返事を返す。
『分かった。今どこにいるの?すぐ迎えに行くよ』
「駅の……いつものトコ……」
『うん、分かった。もう大丈夫だよ。すぐ行くから、泣かないで待ってて?』
「うん……待ってる」
 そうして通話を一旦切ると、智は近くのベンチに座って、顔を伏せた。


 礼義が来たのはそれから約十五分後で。
 その間、智はそれがとてつもなく長い時間に感じられ、途方に暮れていた。

「智ちゃん!」

 だから、礼義の姿を認めた瞬間、智は彼に駆け寄り、抱き付いていた。
「礼君……っ」
 普段と違う智の行動に驚きはしたものの、礼義は優しく背中を撫でてやる。

 そうして、少し落ち着いただろう頃を見計らって、声を掛ける。
「……どうしたの?今日は確か、兄弟で映画を見に行くって言ってたよね」
 すると智は、言いにくそうに口を開く。
「……だって……お兄ちゃんが……」
「うん?お兄さんが、どうかしたの?」
「あまりにも勝手な事言うから、大っ嫌いって言って、走ってきちゃったの」
「……」
 うわぁ……と思いながら、礼義はこの時ばかりは仁に同情する。

 物凄いショックだっただろうな……。
 俺だったら、大好きな智ちゃんにそんな事言われたら、絶対立ち直れない。

「駅まで来た所で、無性に礼君の声が聞きたくなって、逢いたくなったの……ごめんね?急に我儘言っちゃって……」
「智ちゃん……気にしなくていいよ。スゲー嬉しい」
 シュンと項垂れる智にそう言いながら、礼義は彼女をギュッと抱き締めた。

「……でも何かあったの?そうでなきゃあのお兄さんが智ちゃんに理不尽な事言うとは思えないけど……」
 礼義が不思議そうにそう聞くと、智はとても申し訳なさそうに言う。
「あの、ね……お兄ちゃんに見られちゃったの……あのプリクラ」
「あの……?ってもしかして、前に撮った頬にチューしてるやつ!?」
 驚く礼義に智は頷き、頭を下げる。
「本当にごめんなさいっ!すぐに出して寮に置いとけばよかったのに……」
「……まぁ、見られちゃったものは仕方ないよ。それよりこの後どうする?」
 礼義がそう聞くと、智は少し迷った後、礼義の服をギュッと握り締める。

「……礼君と、一緒にいたい……」

 その言葉に礼義は満面の笑みを浮べる。
「じゃあ、俺の家、来る?」
「うん」
 そうして二人は、礼義の家へと向かった。