「ちょっと散らかってるかもしれないけど……」
 そう言う割には、礼義の部屋はいつもそれなりに片付いている。
 すっきりと落ち着いた雰囲気の礼義の部屋。
 その中で、二人はベッドを背に並んで座ると、寄り添いながら手を繋ぐ。
「でも今日は本当、こうして一緒にいられるとは思わなかったから、嬉しい」
「わ、私も……」
 そう言った智は、少し緊張しているようだった。

 礼義の部屋には、何度か来た事はあるが、今日は仁の事があるからだろう。妙にイケナイ事をしているような気分になるから不思議だ。

 智の緊張を感じ取ったのか、礼義は繋いだ手を強めに握る。
「智ちゃん。俺、何があっても智ちゃんの事、離さないから。だから……智ちゃんの気持ちは、真っ直ぐ俺に向いてるって、信じていいよね……?」
「礼君……うん。私の気持ちは、ちゃんと礼君の方を向いてるよ。だから離さないでね……?」
 そう言って智も、ギュッと手を握り返す。

 礼義は智を愛おしそうに見つめると、空いている方の手で智の頬に触れる。
「……智ちゃん、大好きだよ……」
 そうしてゆっくり顔を近付け、優しくキスをした。

 まるで何かを、誓うように。


 夕方頃になって、礼義はそろそろ智を寮に送ろうかと考える。
 最近、日が長くなってきたとはいえ、一人で寮まで帰すのは心配だし、仁の事もある。
「……智ちゃん、そろそろ帰らなきゃダメだよね。送って行くよ」
 だが智は瞳を揺らして、沈んだように言う。
「……帰りたく、ない……」
 それを聞いた礼義は思わず苦笑する。
「うーん。俺もできれば智ちゃんの事、帰したくないんだけどね?」
「だって、戻ったら絶対お兄ちゃん、寮の前で待ってると思うの」
「午前中からずっと?……まぁ、あの人ならあり得そうで怖い……」

 そうして礼義はふと気付く。
「あれ?でも携帯は?全然鳴ってないよね」

 そう、今まで全く気にしていなかったが、普通なら今頃、智の携帯はひっきりなしに鳴っていてもおかしくはない。
 というか、鳴らない方がおかしい。

「……電源切っちゃったから」
「……」

 今頃お兄さん、怒り狂ってそうで怖いな……。

 礼義がそう思っていると、智がふてくされたように言う。
「だって邪魔されたくなかったし……今お兄ちゃんに会いたくないんだもん」
 どうやら智も、相当鬱憤が溜まっていたらしい。
 それが今日の事で一気に爆発したのだろう。

「……じゃあ外泊しちゃう?」
 冗談半分に礼義がそう聞くと、智は困ったように言う。
「ぅ……無断ではちょっと……」
 規則を破るのには抵抗があるらしい智に、礼義は思わず笑ってしまった。
「じゃあやっぱり寮に帰るしかないんじゃない?」
「うん……ごめんね?何か、ワガママ言って」
「ううん。智ちゃんはもっとワガママ言っていいと思うよ?俺と逢いたいって思うのだって、智ちゃんの兄弟にしてみたら、立派なワガママだもん」
「そう、なの?」
「ワガママっていうのは、自分のしたいようにする事だもん」
 礼義の言葉に、智は一瞬目を瞠るが、すぐに笑顔になった。

「じゃあ寮に行こうか」
 そうして二人は、一緒に寮に向かう事にした。