寮ではやはり仁と忠が智を待っていた。
寮の中央玄関付近に二人はいて。
ただ、少し様子が想像していたのとは違っていた。
忠の方は特に変わった様子はないのだが、仁は完全に項垂れた様子でそこにいた。
どうも、智に“大っ嫌い”と言われたのが余程ショックだったのだろう。仁は未だ深い落ち込みから立ち直れていないようだった。
それはともかく、二人に見つからずに智が寮に戻るのは難しそうだ。
どうしようかと礼義と智が逡巡していると、忠が二人に気付いたのか、一人でこちらに駆け寄って来た。
「智、あの後大変だったんだぞ?電話も繋がらないから兄貴、“完全に嫌われた”って、この世の終わりみたいな顔してさぁ……」
そう言うと忠は顔を顰めた。
多分、ここまで引っ張って来るのも大変だったのだろう。
「……で?智はずっとそいつと一緒にいた訳?」
忠は礼義にチラッと視線を向ける。
「……うん」
「まぁ十中八九、そうだろうなとは思ってたけどさぁ……」
そうして頭を掻くと、眉を寄せポツリと呟いた。
「……マジでそいつの事、好きなんだ……」
その声音は、何だか寂しそうで。
だが直後、忠は突然声を上げた。
「あーもうっ!」
そうして仁の元へと行く。
「兄貴。智が帰って来た」
「っ!」
忠の言葉に仁はバッと顔を上げ、情けない表情で智を見る。
その、捨てられた子犬のような視線に、智は物凄い罪悪感が沸いて来た。
「お兄ちゃん……」
それでもやっぱり、謝罪の言葉を言う気にはなれなくて。
だが呼ばれただけで効果はあったらしい。
満面の笑み、とまではいかないが、ホッとしたようにパァッと笑みを浮かべると、傍まで来た。
そうしてそこで、ようやく智の隣りにいる礼義の存在に気付いたらしい。
急に不機嫌な表情になると、智を隠すように間に割り込んだ。
「帰れ。お前に用はない」
懲りずに礼義に向かってそう言う仁に、智はムッとする。
「お兄ちゃん!」
すると、僅かながら仁は怯んだ。
「と、智……」
どうやら先程までの状態が尾を引いていて、強気に出れないらしい。
そんな仁に、智は思い切って聞いてみる。
「どうして、礼君の事認めてくれないの?」
すると仁はムッとした表情で言う。
「……今まで、大事に護ってきたお前を、俺の目の届かない所にいたスキに奪ってったんだ、コイツは!気分いい訳ないだろっ!」
ある意味、開き直った態度の仁に、礼義は内心呆れる。
……実はアンタ、智ちゃんの兄じゃなくて、父親気分なんじゃないのか?
どう考えたってその態度は、結婚を申し込みに来た娘の彼氏に対応するガンコ親父じゃん。