そう思いつつも礼義は聞く。
「じゃあ。どうしたら認めてもらえますか?」
すると仁は眉を僅かに上げる。
「どうしたら認めるか……だと?」
「俺の事、どうあっても認めたくないってのは分かりますよ。でも少しは譲歩して下さい。智ちゃんの為にも」
智の為、という一言が聞いたのだろう。仁は暫く考え込む。
「……そうだな。じゃあ俺と勝負しろ。お前が勝ったら……まぁ認めてやらん事もない。だがお前が負けたらその時は、金輪際智に近付くな」
その条件の内容に、智は眉を顰める。
「お兄ちゃん、そんな勝手な……!」
「智ちゃん、いいよ。……で、勝負の内容は?」
智の抗議を制して、礼義は仁に聞く。
すると仁は口の端を上げ、ニヤリと笑みを浮べた。
「剣道だ」
その言葉に、智だけでなく今まで黙って成り行きを見守っていた忠までもが抗議する。
「剣道って……そんな、酷いよ!」
「そうだよ!いくらなんでも卑怯じゃん!」
その事に礼義は首を傾げる。
「えっと……智ちゃん?」
「礼君、考え直して。お兄ちゃん、剣道の有段者なの」
相手が有段者では、礼義には不利だろう。何せ、体育の授業で少しやった事がある程度だ。
「まぁ話を聞け。勿論ハンデはやるよ。俺が十本取るまでに、俺の体のどこでもいいから、お前の剣が少しでも当たればお前の勝ちにしてやる」
「どこでも?」
そのありすぎるハンデに、礼義は逆にムッとする。
「俺の事、甘く見すぎなんじゃないですか?」
だがそれを宥めるように忠が言う。
「言っとくけど、兄貴は全国大会でも個人で上位に名を連ねる程の実力者なんだ。ハンデがあっても、お前が勝てるかどうか……」
「礼君……」
忠の言葉と、智の不安そうな眼差しに、礼義は渋々ながら承諾する。
「……分かりました。かなり不本意ですけどね。でも負けても文句言わないで下さいよ?ハンデの事言い出したのは、そっちなんですから」
「男に二言はねーよ。じゃあ場所はどうするかな……」
「近くの総合体育館の剣道場なら、予約入れれば個人でも借りられますよ」
「そうか。じゃあ俺が予約しておいてやるよ。詳しい日時が決まったら連絡する。ま、せいぜい頑張るこったな」
仁がそう言うと、智は不安そうに礼義を見上げる。
「智ちゃん、俺、勝つよ。だからそんな顔しないで」
「でも……」
安心させるよう笑顔を向けても沈んだ表情の智に、礼義は殊更明るく言う。
「そうだ。早坂先生に言っておいてくれる?“暫く顔出せません”って」
「礼君……」
「さーて、帰って早速特訓かな。じゃあ智ちゃん。今日は逢えて嬉しかった」
「うん……またね」
智に別れを告げ、名残惜しそうにその場を離れてから、礼義はこれからやるべき事を頭に思い浮かべる。
「智ちゃんの為に、何が何でも頑張らなきゃな。うん」
そう、心に誓って。
次の日すぐに、智から礼儀に日時の連絡があった。
二週間後の日曜日・十時から、と。