「はぁ!?交際を認めて貰う為に、礼君が兄貴の方と決闘する!?」

 そう声を上げたのは朱夏だ。
「朱夏、ちょっと落ち着いて……」
「落ち着いていられる訳ないでしょ!?何その横暴!」
「うんうん。私も朱夏ちゃんの意見に賛成。そりゃあ礼君が問題児とかなら分かるけど……」
「違うんだから、智が誰と付き合うかは本人の勝手でしょ」
「でも、まだ私達も会った事ないし、仕方ないかもしれないよ?そういう凝り固まった意見の持ち主は、誰かに指摘されて初めて自分の間違いに気付くんだから」
「それなら智に言われた時点で気付くでしょうよ。多分意固地になってるだけなのよ。男のプライドってヤツ?嫌よねそういうの」
 仁の事をそう扱き下ろす朱夏と璃琉羽に、智は苦笑する。

 休み明けの月曜、智は学校で朱夏と璃琉羽に、休日の出来事を話したのだ。

 礼義との仲を反対されて、仁とケンカした事。
 どうしても交際を認めないという仁に、礼義が抗議した事。
 その結果、礼義が剣道で有段者の仁と勝負する事になった事。

 その反応が先程の内容で。
「大体、卑怯よね。自分の得意分野で勝負を持ちかけるなんて。やっぱりこういうのは正々堂々とした勝負じゃないと!」
「そうだよ。でも弟君の方はその勝負、反対したんだ?ちょっとは成長したみたいだね」

 以前の忠ならきっと、いや確実に仁の提案に賛成していたハズだ。
 それはやはり色んな人に色んな事を言われた事で、考える事があって。
 その結果、人間的に成長したのだろう。

「それに比べて……兄貴の方は男の風上にも置けないわ」
「それでも礼君はその話を受けたんでしょ?ちょっとカッコイイかも」
「そういうのは無謀な挑戦って言うのよ」
 朱夏のその言葉に、智は激しく落ち込む。
「……そうだよね。万に一つの可能性もないって、私でも分かるもん……」
 智のその様子に、朱夏は慌てる。
「あ、いや、確かに無謀なんだけど……礼君、試合までの間、特訓するんでしょう?」
「多分……暫く弓道部にも顔出さないって言ってたから……」
 だが、特訓するにしても十分な時間は得られないだろう。

「私、礼君と別れる事になっちゃうのかな……」

 そう言いながら、智は瞳に涙を浮べて、今にも泣き出しそうになった。
 だが、朱夏と璃琉羽は智に掛ける言葉が見つからない。

 そんな時、智の携帯がメールの着信を告げた。
「……試合の日程が決まったみたい」
「いつ?」
「……二週間後の、日曜日。十時からだって……早過ぎるよ……」
 もっと時間があれば、礼義もそれだけ多く特訓が出来るのだが。
「智……よしっ!その日は皆で応援に行こ。別に何が出来るってワケでもないけど……味方がいるってだけで、頑張れたりするもんでしょ?」
「朱夏……」
「いざとなったら、私達もお兄さん説得しようよ。何より、智ちゃんが笑顔でいられる事が大事なんだから。そこのトコ、分かってないんだと思うし」
「璃琉羽……」
 元気付けるように言われたその言葉に、智は少しだけ笑顔になる。

「二人共、ありがとう」

 その言葉に朱夏と璃琉羽の二人は、ニッコリと笑ってみせた。