そうして新学期。
新しいクラスで一人、智は浮かない表情をしていた。
「おっはよー!……ってどうしたの、そんな暗い顔して」
朝一番の挨拶と共にそう聞いてきたのは朱夏だ。
「おはよう朱夏」
取り敢えず智はそう返すが、浮かない表情のまま、溜息を吐く。
「何々、どうしたのよー。ほら、お姉さんに話してみなさい?」
悠然と微笑んでそう言う朱夏に、智は沈んだ雰囲気で話し出す。
「うん……あのね?実は、弟が月羽矢に入学して……それだけならまだよかったんだけど……お兄ちゃんまでこっちの大学に入学してて……もうヤダ……」
智の言葉に、朱夏は思い出すように言う。
「……智のトコって、確か凄いシスコンだったんだっけ?って事は……」
「……春休み中、ずっと礼君と逢うの邪魔されて……お花見も、一緒に行こうねって約束してたのに、行けなくて……」
今にも泣き出しそうになりながらそう言う智は、ここ数日だけで相当参っているようだった。
「でもそれなら、これからもっと大変なんじゃない?」
「多分……中学までの時と、同じ状況になると思う」
それを聞いて朱夏は難しい表情をする。
智から少し話を聞いた事があるが、兄弟二人のタッグは徹底していて。
もしその通りになるのだとすれば今後、智と礼義が直接逢って話をする、という事すら難しくなるだろう。
それは友達として、黙って見過ごせない。
「分かった。できる範囲で協力してあげる」
朱夏がそう言うと、智は嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。
「朱夏……っありがとう〜っ!」
「弟君も寮なんだよね?それなら愁が男子寮の寮長なんだし、それとなく牽制するように頼んどく」
「〜〜っ朱夏大好きっ」
そう言って智が朱夏に抱き付いていると、二人に誰かが抱き付いてきた。
「や〜っ、仲間外れにしないで〜」
「あら、璃琉羽おはよう」
「おはよう、璃琉羽」
「おはよ、朱夏ちゃん、智ちゃん。何の話してたの?」
そう聞かれて智は、同じ事を璃琉羽に話す。
「そっか……でも大丈夫!私も付いてるんだし、ね?」
璃琉羽は、任せなさい!とでも言うように笑顔を向ける。
「〜〜っ璃琉羽〜っ!」
そうして今度は璃琉羽の方に抱き付くと、半ば呆れたような声が背後から飛んできた。
「女同士で何やってんだよ」
そう言ったのは朱夏の彼氏の愁だ。
「友情の再確認。あ、それより愁。男子寮に智の弟が入ったハズなんだけど、知らない?」
三人で抱き合ってた事を、朱夏は一言であっさりと片付けると、愁に忠の事を聞く。
すると愁は途端に顔を顰めた。
「全く……とんだ問題児が入ってきたモンだよ」
「え……忠が何かしたの……?」
多少青ざめた顔で、智が恐る恐るそう聞くと、愁は溜息を吐いて首を横に振った。
「逆。何もしてねぇの」
「は?それのどこが問題だって言うのよ」
訳が分からないという顔で朱夏がそう聞く。
何もしてないのなら、問題ないだろうに……。
三人は不思議そうに首を傾げた。