だが愁は呆れたように話し出す。
「大アリだ。文字通り“何もしてない”んだから。アイツ、入寮したのは新入生の中で一番早かったクセに、未だに荷物が片付いてねぇんだよ」
愁の言葉に、三人は唖然とする。
「荷物放ったまま、毎日どこかに出掛けてるみたいで」
続けられた言葉に、智はビクッと反応する。
どこか、とは勿論、智の所だ。
「同室の奴が泣き付いてきたぜ?荷物邪魔だし、ようやく片付け始めたと思ったら夜中にやるから、ここ二〜三日は特に、うるさくて寝れないって」
そのとどめの言葉に智は絶句する。
寮では一年生と二年生はそれぞれ二人部屋で。
三年生は受験などがある為、個室を与えられるのだが。
流石に寮生活の初めから、ルームメイトにそこまで迷惑を掛けているとは思ってもみなかった。
「ご、ごめんなさい、忠が……」
「は?何で南里が謝るんだ?」
急に謝ってきた智に、事情を何も知らない愁は首を傾げる。
「だって……休みの間中ずっと、私と兄と一緒にいたから……」
「はぁ?」
申し訳なさそうにそう言う智に愁が難色を示すと、すかさず朱夏がフォローを入れる。
「言っておくけど、智の責任じゃないわよ。弟君は智と礼君のデートを邪魔する為に、お兄さんと一緒に智といたんだから」
そう言って朱夏は愁に簡単に、智の兄弟が重度のシスコンだという事を説明する。
すると納得したのか愁は苦笑を浮べて言う。
「……まぁそういう事なら、南里の弟には俺から厳重注意しておくから」
「本当にゴメンね?忠が迷惑掛けて……」
「……大変だな、南里も」
愁がしみじみとそう言った所で、タイミングよく朱夏が口を開く。
「あ、ついでに寮長権限でちょこーっと協力してくれない?休みの日に寮に足止めするとかさ」
朱夏のその頼みに、智と璃琉羽も何かを訴えるような眼差しで愁を見る。
「……」
「……」
「ね、愁。お願いっ」
「……」
「……」
手を合わせて愁を窺い見る朱夏と、今にも泣き出しそうな表情で視線を向けてくる智と璃琉羽。
「……っ」
三人の視線に耐えられなくなった愁は、溜息を吐いて折れた。
「……分かった。できるだけ、やってみる……」
渋々とだが承諾してもらえた事に、三人はパァッと笑顔になる。
「やった!サンキュー愁」
「よかったね、智ちゃん」
「うんっ!……あの、ありがとう、白山君」
「……おう」
喜ぶ三人を尻目に、愁はもう一度こっそりと溜息を吐いた。