そうして二週間後。
「怖気付いて逃げ出すかと思ったぜ」
「まさか。認めてもらうチャンスをみすみす逃す訳ないでしょう」
「いい度胸だな。だがこの勝負が終わったら、二度と智には近付かないでもらうからな」
「負けませんよ」
「ハッ!随分な自信だな。ギャラリーがいるからか?」
道場で顔を合わせた途端、二人は防具を身に着けながらそう言い合う。
だが、あくまでどちらの口調も静かで淡々としている。
やはり互いに、相当集中して来ているのだろう。
そんな二人の様子に、智をはじめ応援に来た朱夏や璃琉羽も黙ったままだ。
「……礼君」
声を掛けていいものかどうか迷った挙句、智はおずおずと声を掛ける。
「勝つよ、智ちゃん。絶対に負けられない戦いだから」
だがそう言う礼義の視線は、仁を見据えたままだ。
「うん……頑張って」
そうして二人は準備を終えると、立ち上がった。
審判は忠だ。
「ルールの確認をしておく。兄貴は正式ルールで先に十本取ったら勝ち。もしそれまでに伏見が兄貴の体のどこでもいいから、竹刀を当てる事ができれば、伏見の勝ち。
二人共依存はないよな?」
「あぁ」
「勿論」
そうして二人は礼を交わすと、竹刀を構えながら蹲踞する。
「それじゃあ……始め!」
忠がそう言うと、立ち上がりざますかさず仁が動いた。
「ヤァーーーッ!面ッ!」
「面あり!」
それは何とも鮮やかな面で。
礼義は一歩も動けなかった。
「……っ!」
「こんなものか」
仁は鼻で笑うと、再び礼義と対峙しながら言う。
「今ので実力差は十分分かっただろ。何なら棄権してもいいんだぞ」
「……棄権はしない。まだ九本残ってる。可能性がある限り、俺は絶対に諦めない」
礼義はそう言うが、誰がどう見ても実力差は明らかで。
その後も立て続けに仁の技が決まっていく。
最初の一本みたいにいきなり決められる、という事はないのだが、それも明らかに仁が手を抜いていると分かるもので。
竹刀で打ち合ったり、鍔競り合いになっても、仁には全く隙がない。
完全に礼義は仁に翻弄されていた。
そうして残す所、僅か一本。
「もう十分だろ。お前の勝ち目は、万に一つも無い」
その仁の言葉通り、礼義はかなりキツそうだった。
何せ、いくら仁が手を抜いているとはいっても、かなり翻弄されたのだ。
それだけでも消耗させられるというのに、有段者である仁の打撃は一打一打が重い。
防具を着けているとはいえ、その衝撃は確実に礼義の体力を奪っていく。
特に、腕の疲労が顕著だ。
攻撃を受けるのは全て竹刀。それはつまり、腕に物凄い負担が掛かるという事だ。