そうして二人は忠の方を向く。
「忠、ありがとな」
 すると忠はそっぽを向いて言う。
「別に俺は……智がこれ以上苦しむのは嫌だっただけだ」
「でも、ありがとう」
「忠……礼君の事、認めてくれてありがとう」
 なおも礼を言う礼義に加え、智からもお礼を言われ、忠は詰まったような顔をする。

 そんな忠に朱夏達も声を掛ける。
「成長したじゃない。以前のアンタなら、絶対にお兄さんの味方してたんじゃない?」
「本当。ちゃんと智ちゃんの為になる事を考えられるようになったんだね〜」
 からかうようなその物言いに、忠は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「っ……うるさいっ!俺はもう帰るからなっ」
 叫ぶようにそう言うと、忠はそのままその場を立ち去ってしまった。


 それを見送って、智はクスクスと笑う。
「どうかした?智ちゃん」
「ん?忠が照れ隠ししてるなぁって思って」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「ま、色々言われちゃ気まずいものもあるかもしれないわね。今までの態度が態度だから」
 そう言いながら朱夏は苦笑する。

「でも良かったね、智ちゃん」
「え?」
「そうね。無事礼君も勝った事だし」
「……うんっ」
 朱夏と璃琉羽にそう言われて、智は満面の笑みを浮べた。


「でも……一時はどうなる事かと思ってハラハラしちゃったわよ、礼君」
「うんうん。最後のあの瞬間は、もうダメだと思ったもん」
「私も思った……」
 女の子三人に言われ礼義は、たはは…と苦笑いをする。
「あの瞬間は、俺もダメかと思いました」
「運も実力の内、って言うけどね。もうちょっと智の気持ちも考えて決闘を受けるべきだったかもね」
「……すみません」
「どうせなら三番勝負とかにして、お互いに得意分野で戦う、とかってすればよかったのに」
「や、そこまで咄嗟に思い浮かばなかったですし……それに、お兄さんにとって俺は、大事な智ちゃんを奪っていく悪者ですからね。言えないですよ、そんな提案」
 その前に、そんな提案しても仁は聞き入れなかっただろうが。

「……何か礼君の言い方だと、まるで智の親に結婚の承諾を貰いに行って、決闘の話になった、って感じね」
 しみじみとそう言う朱夏に、礼義は苦笑する。
「実際そんな感じですよ。お兄さんと話してて思いましたもん。“あんたは智ちゃんの父親か!?”って」
「まぁね〜。普通兄弟に交際を反対されるってなかなかない事だと思うわよ」
 朱夏がそう言うと、智はフッと寂しそうな顔をする。

「お兄ちゃんには……認めてもらえなかったけど……」
「うん……」
「でも、忠にちゃんと分かってもらえたのは、本当に嬉しい」
「……俺も」
 その言葉に全員頷き合い、微笑み合った。