二人を見送ると、礼義が口を開く。
「取り敢えず、一度家に寄っていい?荷物邪魔だし」
 その言葉に智が礼義の荷物を見る。
「……そうだね。駅のコインロッカーとかには入りそうもないもんね」
 何せ持っているのは剣道の竹刀と防具だ。到底入るとは思えない。
 かと言って、持って歩くのも邪魔だ。

 その為、二人は一度礼義の家に寄って。
 荷物がなくなった所で礼義は、うーん、と伸びをする。
「アレ、実は借り物なんだよね。剣道部の友達にちょっと無理言って、学校のを貸してもらっちゃったんだ」
「……それ、いいの?」
「だって、どうせ入ったばっかの新入部員か、体育の授業でしか使わないし。休日なら授業はないし、今の時期なら部員達はもう自分の防具持ってるから、剣道部にも 支障ないし」

 確かに、剣道を嗜んでいる人じゃなければ、防具は持っていないだろう。
 学校の授業で剣道をやる、といっても購入するのは竹刀だけ。
 防具は学校の物を使うのが普通だ。

 でも、だからって。
「バレたら怒られるんじゃないの……?」
「ははっ。まぁ、バレたらその時はその時だけどね」
 笑ってそう言いながら、礼義は息を吐く。

「あー……それにしても、智ちゃんと逢うの、本当に久し振りだね」
 しみじみとそう言う礼義に、智は嬉しそうにクスリと笑う。
「うん、久し振り」
「こうして二人でゆっくり話すのも。……試合前はそんな余裕なかったし」
「二週間全然、だもんね……ちょっと寂しかった」
 全然逢えなかった間の事を思い出したのだろう。智の声が多少沈む。
 その事に礼義は苦笑しながら言う。

「俺も。でも……願掛けしてたんだ」

「願掛け?」
 不思議そうに聞く智に、礼義はニッコリと笑って答える。
「うん。“智ちゃんに逢うの我慢するから、勝てますように”って」
「そうなの?」
「……この先ずっと一緒にいられるなら、二週間ぐらい我慢できるよ」
 その言葉に智は、頬を染めながら聞く。
「この先、ずっと?」
「うん、ずっと」
 礼義がそう肯定すると、智は嬉しそうにはにかんだ。
「そう思いながら、後はひたすら剣道部の練習にこっそり混ざって、友達に鍛えてもらってた」

 それは並大抵の事ではなかっただろう。
 短期間で上達しなければならなかったのだ。
 恐らく礼義は、剣道部員の誰よりも熱心に取り組んでいた事だろう。
 でなければ、いくらマグレとはいえ、仁に勝つ事は出来なかっただろうと智は思う。

「ありがとうね、礼君」
「ん?」
「私の為に……」
「気にしないで。俺の為でもあったんだから」

 そう、これは二人の為。
 二人が一緒に、いる為の。

 そうして二人は顔を見合わせると、微笑み合った。