それから数日後。

 部活を終えて、礼義がいつものように智を寮まで送って行くと、寮の前に仁が待ち構えていた。
「あれって、お兄ちゃん……?」
「……だよね。今度は何言われるのかなぁ……」

 智と礼義がそんな風に話していると、仁は二人の姿を認めたのだろう。
 近付いてきて、礼義の前で足を止めた。
「お兄ちゃん……」
「……何か、御用ですか?」
 緊張を含んだ声で礼義がそう聞くと、仁はしかめっ面で忌々しそうに言う。

「この間の試合……アレは確かにお前の勝ちだ。それは認めてやろう。元々俺から言い出した条件だし、認めなければ男が廃るからな」

 その言葉に礼義はホッとし、智は嬉しそうな顔をする。
 だがそれを見て、仁は益々顔を顰めた。
「……勘違いするなよ?勝ちを認めはしたが、それだけだ。大体俺は、まだ納得した訳じゃないしな」
「お兄ちゃん?」
「えっと……それはどういう……」
 困惑した表情で礼義がそう聞くと、仁は意地の悪そうな笑みを浮べて言う。

「つまりだ。要はこれからも今まで通り、邪魔させてもらうって事だ」

 その言葉に智は顔を引き攣らせ、礼義は深く溜息を吐いた。
「お兄ちゃん、それじゃあ礼君が試合した意味ないじゃない!」
「意味はあるさ。そもそもそいつは“認めろ”と言っただけだ。何を認めるかまでは、ハッキリと明言してないだろう」
「っこの場合は私の彼氏として認めるって事でしょ?」
 智のその反論に、仁はニヤリと笑って言う。

「いいや?俺がそいつに再三言っていたのは“智に近付くな”という、いわば警告だ。で、そいつは俺に“少しは譲歩してくれ”と言った。その上での認めろ発言だ。 これの意味する所が分かるか?」

 含みを持たせた仁の言葉に、何を言いたいのか感付いた礼義は、ガックリと項垂れる。
 そうして続いた言葉は。

「俺が“認める”のは、そいつが“智に近付く”事。智の彼氏として認めた訳じゃないし、これが俺の最大限の“譲歩”って訳だ」

 というものだった。
 その屁理屈に、当然智は怒る。
「何それ、お兄ちゃん酷い!」
 智の批難に、仁はほんの一瞬怯む様子を見せたが、すぐに開き直ったように言う。
「俺は何か間違った事を言ってるか?智?」
「そ、それは……」
 人の揚げ足を取るような屁理屈だが、一概に間違っているとも言い切れず、智は押し黙ってしまう。
「お前はどうだ?俺が間違ってるか?え?」
「……」
 礼義が反論しないのを見て、仁は勝ち誇ったように言う。

「とにかく、だ。これから覚悟しておけよ?」

 そうして仁は不敵な笑みを浮べた。