そうして忠は、ちらりと朱夏に視線を移してから、智に向き直る。
「智、友達はもっと選んだ方がいいぞ?こんな卑怯なやり方するなんて……」
「な……っ!」
「忠!」
真剣にそう言う忠に、智や朱夏が抗議の声を上げるのに割って入るように、璃琉羽が口を開く。
「そういう言い方はよくないんじゃないかなぁ?」
そうしてニッコリと笑って自己紹介をする。
「私、姫中璃琉羽。朱夏ちゃんと同じく智ちゃんの親友。よろしくね?」
璃琉羽のおっとりとした雰囲気に、先程までピリピリしていた場の空気が、いくらか和んだようだ。
「弟君の不満も分かるけどね。でも寮の生活も大切な事でしょう?これから三年間、過ごしていくんだから」
穏やかな言い方ではあるが、その内容に忠はムッとする。
「それは……そうだけど、でもやっぱり卑怯だろ。わざわざ寮の事を出して、智の傍から俺を遠ざけるみたいなやり方は」
「でもそれはね。ルームメイトから苦情が来てるのを知って、智ちゃんが“自分のせいだ”って心を痛めた事実もあるんだよ」
それを聞いて、忠は驚いたように目を瞠る。
「なんで智が……」
「だって、こっちに来てからずっと智ちゃんと一緒にいたから、寮の部屋の片付けができなかったんでしょう?」
「っ!」
璃琉羽の指摘に、忠は顔を歪ませる。
気付いたのだろう。
智が“心を痛めた”という経緯に。
そんな忠に、璃琉羽は問うように口を開く。
「……ねぇ、弟君は気付かない?智ちゃんの変化に」
「……変化?」
「私と朱夏ちゃんは、高校に入ってからの智ちゃんしか知らない。でもね、それでも二年前に出会った頃と今とじゃ、結構違うもん。離れて暮らしてた弟君になら、
その違いはハッキリと分かるんじゃない?」
「っ……それは……」
その璃琉羽の指摘に、かなりの心当たりがあるのだろう。忠は幾分か動揺したようだった。
璃琉羽はなおも続ける。
「人は些細な切っ掛けで、大きく変わる事もあるんだよ?」
言いながら璃琉羽は思い出す。
自分も些細な切っ掛けで変わったから。
今、自分に緋久という恋人がいるのも、メル友という切っ掛けから始まったのだから。
「……でもそれがいい変化とは限らないだろ」
忠の言葉に、璃琉羽は現実に目を戻す。
「そうだね。でも今の智ちゃんは、悪い方向に変化したと思う?」
「少なくとも以前の智なら、俺と兄貴の意見を、もっとちゃんと聞いてた」
その言葉に璃琉羽は、本当に極僅かだが眉を寄せた。
だが璃琉羽は、傍目には笑顔のまま話す。
「ふーん……つまりそれは、“自分達の都合の悪い方に変化した”って事?」
「何を……っ!」
「智ちゃんはお人形さんじゃないよ」
「!」
「全部自分達の思い通りになるわけないじゃない。大切な兄弟っていうのは分かるけど、相手の気持ちとか感情とか全部無視して、自分達で勝手に決めちゃうのは、
護るって言わないよ?」
「……っ」
「ねぇ、いつまでもずっと一緒にいられるワケじゃないんだよ?だからここら辺で、もう少し大人になったら?……肝心の智ちゃんに嫌われちゃう前にね」
「っ智が俺達の事、嫌うワケ……」
「絶対に無いって、言い切れる?」
「っ」
「智ちゃんの両親ならともかく、君もお兄さんも大して年は変わらないのに、本当に智ちゃんの為になる判断ができてるとも思えないしね」