ニコニコと笑顔のまま忠を理詰めにしていく璃琉羽に、智と朱夏と愁の三人はコソコソと話し出した。

「な、なぁっ、姫中ってあんなんだっけ?」
「全然違うよ〜っ」
「私、今初めて璃琉羽が怖いって思ったわ……」

 そんな三人に、緋久が声を掛ける。
「何の話だ?……というか、アレ誰だ」
 クラスが違う為、状況が全く分からない緋久は、璃琉羽と話をしている忠に首を傾げている。
「一年生だろ?アレ」
 その様子には、嫉妬とかそういう類のモノは全く無く。心底不思議そうだ。

 その事に朱夏が怪訝そうに聞く。
「……宗方。アンタ嫌じゃないの?璃琉羽が他の男と話してて」
「いや?お互いに敵意剥き出しみたいだし。それよかアレ誰だ?璃琉羽があんなに容赦なく言うなんて、珍しい」
 その言葉に三人は、またコソコソと話し出す。
「やっぱり、宗方君の影響もちょっとはあったりするのかな?」
「えー?でもコイツはあんなにズバズバ言うタイプじゃないよ」
「確かに。どっちかっていうと無口なイメージだしな」

 そんな風に話していると、忠が智に声を掛けてきた。
「智……寮の片付けするから、もう行くな」
「あ、うん。頑張ってね」
 そうして忠は名残惜しそうに教室を出て行った。

 今度はあまりにもあっさりと引き下がった忠に、智は不思議に思う。
 三人で話してる間に、璃琉羽がまた何かを言ったのだろうか?

 その事を智が璃琉羽に聞くのと、緋久が璃琉羽の傍に行って問い掛けるのはほぼ同時だった。
「ねぇ、璃琉羽。忠に何言ったの?」
「璃琉羽。今の誰?」
「ん?今のは智ちゃんの弟だよ。凄いシスコンなの」
 璃琉羽がまず緋久の問いに答えると、ようやく疑問の解けた緋久は満足したように頷いて、璃琉羽を自分の腕の中に収めた。
 璃琉羽は嬉しそうにその腕に頬を擦り付けると、今度は智の問いに答える。
「別に特には何も言ってないよ?ただ弟君があんまりべったりしすぎてると、友達付き合い悪いからって、学校とか女子寮内で智ちゃんが孤立しちゃう可能性もあるよって」
「ま、少なくとも私達がいればクラス内での孤立はないけどね。やるじゃない璃琉羽」
 ニッと笑ってそう言う朱夏に、璃琉羽はVサインをする。
「朱夏……璃琉羽……ありがとう」
 そう言って智は、嬉しそうにはにかんだ。


「じゃあドコに行く?先にお昼食べるよね」
 智がそう言うと、朱夏は何かを企むように、ニンマリとした笑みを浮べる。

「何言ってんのよ。智は今すぐ、礼君に電話」

「え……あ!」
 朱夏の言わんとしている事が分かって、途端に智は驚いた表情をする。
 璃琉羽も何も言わずにニコニコしている所を見ると、どうやら彼女も同じ考えらしい。

 つまり二人は、智と礼義の為に、二人で逢う機会を作ってくれたのだ。

「〜っ二人共、本当にありがとうっ!」
「いいの、いいの。私達は私達で、それぞれデートする事にするから」
「そうそう。念の為、駅で待ち合わせにして、そこまで皆で一緒に行こ?」
「うんっ」
 二人の気遣いに、智は満面の笑みを浮べた。