そうして智はすぐに礼義にメールをする。
「“今から逢える?”っと」
送信すると、ものの数秒で電話が掛かってきた。
『智ちゃん!今のメールって、デートできるって事!?』
「う、うん……でも礼君、予定とかあったりしない?」
電話口で興奮したような礼義の様子に多少戸惑いながらも、智はそう聞く。
『全然大丈夫!あ、でも、その……智ちゃんの兄弟は?』
今更ながらに思い至ったように礼義はそう聞いてきた。
「今日は大丈夫。二人共いないから。いつもの駅に来てもらっていい?」
寮の片付けをする事になった忠は、まさか智が礼義と逢うとは思ってもいないだろう。
通常なら、自分が傍にいられないとなったら兄の仁に連絡を取るだろうが、“女友達とショッピング”という事なら連絡はしないハズだ。
忠は実際に、一緒にショッピングに行くという朱夏や璃琉羽と顔を合わせているのだし、別の行動を取るとは思わないだろう。
もし連絡したとしても、仁も女の子同士ならわざわざ邪魔しに来るような真似はしない。それは小・中学の時に既に証明済みだ。
『分かった、すぐ行くよ。じゃあ後で』
「うん、また後でね」
電話を終えると、智は知らず微笑む。
すると、それを見つけた朱夏がすかさず言った。
「嬉しそうね、智〜?」
その表情はニヤニヤとしていて。智は思わず一歩下がる。
「な、何?」
「別にぃ?ただ、そんなに礼君に逢いたかったのかな〜って」
その指摘に智は、途端に顔を真っ赤にさせる。
「でも礼君もすっごく智ちゃんに逢いたそうだったよね〜」
「!?」
璃琉羽の言葉に智が驚いた表情をすると、彼女が言う。
「礼君の声、こっちまで聞こえたよ」
「あ……そんなに声、大きかった?」
「うん」
すると今度は、智は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「まぁ、ここでいつまでも話してたら礼君待たせちゃうし、とにかく行こう」
朱夏がそう言うと、智ははにかんだような笑みを浮べて頷いた。
駅まで行くと、礼義はもう既に来ていて。
「智ちゃん!……何だか大人数だね」
智の姿を認めて、嬉しそうに駆け寄ってきた礼義は、一緒にいる面々に気付いて、少なからず気落ちする。
どうやら智だけが来ると思っていたらしい。
それを見て、智・朱夏・璃琉羽の三人は、顔を見合わせてクスクスと笑う。
「大丈夫よ、礼君。この後はそれぞれ別行動だから」
「春休み中、ずっと邪魔が入って二人きりでゆっくりデートできなかったんでしょ?そう言って智ちゃん嘆いてたもん。邪魔なんてしないよー」
朱夏と璃琉羽、二人の言葉に、礼義は顔を輝かせ、智は照れたように頬を赤らめる。
「ほら、そろそろ行くぞ、朱夏」
「ちょっと待ってよ、愁!じゃあ二人共、デート楽しみなさいよ?」
「私達ももう行くね。明日からは部活も始まるし、今日は目一杯、遊んだら?じゃあ行こっか、緋久君」
「ありがとね、二人共」
「ありがとうございました」
そうして朱夏達を見送って二人きりになると、礼義は智の手を握る。
「じゃあ俺達も行こっか、智ちゃん」
「うんっ」
二人はお互いに微笑み合うと、久し振りのデートを楽しむ事にした。