時間はあっという間に過ぎ、日も暮れてきたので、礼義は智を寮まで送る。
「何だか突然だったけど、久し振りに礼君とデートできて嬉しかった」
「うん、俺も」
ニコニコしながらそう言う礼義に、智は申し訳なさそうに目を伏せる。
「ごめんね、礼君。私のせいで……」
「そんな!智ちゃんのせいなんかじゃないよ!」
礼義は激しく否定するが、智は首を横に振る。
「でも、お兄ちゃんと忠が……」
そう言って俯く智を、礼義は優しく包み込むように抱き締める。
「確かにあの二人は過保護すぎだとは思うよ?でもやっぱり、智ちゃんの事を大好きだから一緒にいたい、っていうのもあると思うんだ」
「……うん」
礼義の言う事はよく分かる。
家族でも恋人でも。
大好きだから一緒に過ごしたいと思うのだ。
でもその気持ちが行き過ぎると、相手の負担になったりもする。
仁と忠の行動はまさにその行き過ぎ状態なのだ。
その事を思って、智は俯き目を伏せる。
「で、一緒にいるからにはやっぱり、独占したいと思うから。俺もそうだし」
礼義の最後の言葉に、智は驚いて顔を上げる。
「礼君、も?」
「うん」
その事に智は真っ赤になる。
大好きな人に自分の事を、独占したい、と言われて嬉しくないわけがない。
ずっと一緒にいたい、って言われてるみたいで。
嬉しい。
「……皆が智ちゃんの事独占したいって思うから……難しいよね」
「……そうだね」
結局はそういう事なのだろう。
独占したいから、他の“誰か”の存在を疎ましく思う。
それが智の想う人ならなおさらだ。
誰だって、自分のモノを横取りされるのは嫌だ。
仁と忠の心情としては、それと同じなのだろう。
誰にも取られたくない。
一緒に過ごすのは、自分達でありたい、と。
「だから智ちゃんが気にする必要はないよ」
「礼君……ありがとう」
礼義の言葉に智が笑顔を向けると、彼は微笑み返してきて。
智の頬に片手を添え、親指でそっと撫でる。
優しいその愛撫に、智は心地良さを感じて、微笑みながら目を閉じた。
「……部活、明日から始まるの?」
「うん」
「じゃあ、明日からはそこで逢えるね」
「そうだね」
「……智ちゃん」
「?なぁに?」
目を開け、微笑んだまま首を傾げる智に、礼義は素早くキスをする。
すると智は一瞬固まり、すぐに顔を真っ赤にさせると、恥ずかしさのあまり礼義の胸元に顔を埋めた。
「誰か……見てたら……」
そう言う智の頭のてっぺんに、礼義はもう一つキスを落とす。
「智ちゃん……可愛い……」
「もう……」
智が寮に戻ったのはそれから十分後。
顔を真っ赤に染めたままだった。