下げた頭を上げられず、それでも下から彼女をチラッと見ると、真っ赤になって俯いていて。
すると突然、彼女の両脇から女の子が二人現れる。
「何々、告白受けてんの〜?オッケーしてみれば?」
「そうだよっ、付き合ってみなきゃ分かんないし」
彼女の友達だろうか?二人とも道衣に袴姿で。
だが礼義には天の助けに見えた。
「あ……のっ、南里、智って言います……お友達、からで……」
「ストーップ!何でそこでお友達!?付き合っちゃいなさいよ!」
「うぇ!?だ、だって朱夏、そんな急に……」
朱夏サンありがとう。
「はい決定ー。という事で智をヨロシクっ!えっと……」
「あ、伏見礼義です」
「礼義君か。私は絹川朱夏(きぬかわしゅか)。よし、智は任せた」
姉御だ。何かそんな感じ。
「智ちゃん泣かせちゃダメだよー?あ、私、姫中璃琉羽(ひめなかりるは)。よろしくね〜」
こっちの子は何だかおっとり系。じゃあ彼女、智ちゃんは大人し系か?
この三人、弓道部“仲良しトリオ”って感じがひしひしと伝わってくる。
「えっと……じゃあ智ちゃん。お付き合いって事で、いいですか?」
「あ……ハイ」
真っ赤になって俯いちゃって、可愛いなぁもう。
礼義はそんな事を思いながらにやけていた。
こうして始まった、礼義と智の交際。
二人が会う時は主に礼義が会いに行くのが多い。
智は弓道部の練習があったし、彼女は月羽矢の寮生だった。
月羽矢の学生寮は高等部から入れるのだが、その寮は学園の敷地内にある。
そうなると学校の外で待ち合わせるより、会いに行く方が手っ取り早い。
敷地内には私服姿も多いし、やはり様々な設備が整っているからだろうか、練習試合が多いらしく、他校の制服もあちこちで見かける。
ランドセル背負ったガキもいるし。
ここなら礼義一人紛れた所で違和感はない。
弓道場があるのは敷地内の端の方。
最初の頃こそ迷ったが、今ではもう通い慣れた道だったりする。
弓道部顧問の早坂先生も、結構若いのに最初はおっかない感じだった。
だが、話してみると『生徒の自主性を尊重する』とか言って、特に厳しい事は言われなかった。
「こんにちはーっ」
「お、来たか。南里!彼氏来たぞ」
逆に今では礼義が顔を出すと、部活中の智を呼んでくれたりして、礼義の中ではかなりいい先生となっている。
「は、はいっ!……えと、礼君……いつも来て貰って、ごめんね」
「ううん!俺が来たくて来てるんだから。気にしないで」
「礼君……」
「はーい、そこ!二人の世界に入ろうとしない!」
「あ、朱夏サン。ども」
こんな事は日常で、顧問の先生なのに特に何も言ってこない。
但し。
「伏見、お前南里の練習終わるまで暇だろ?今から大会の練習でチームで射るから。お前記録係な」
という雑用をやらされる事はあるが。
それでもそのおかげで少しは弓道に興味も持てたし、何より色々分かってきたので、智と弓道の会話も出来るようになった事に、礼義はほんの少しだけ先生に感謝していたりする。