夏休みに入って、礼義は短期のアルバイトを始めた。
 来年は受験だし、智と二人で遠出もしたいので、小遣い稼ぎを目的として。
 智は智で秋にある弓道の大会や、昇段審査の為に部活を頑張っていたので、邪魔したくないというのもあった。
 その為、学校があった時よりも逢う時間は少し少なくなったかもしれない。
 勿論、電話とメールは欠かさなかったが。
 だがもしかしたら、それが最初のすれ違いの原因だったのかもしれない。


 それは久しぶりに二人でデートしていた時の事だった。
「あの、お盆辺りは部活ないし、二人でどこか行かない……?」
 嬉しい申し出だったが礼義は驚いた。

 智は寮生。実家は県外になる。だから普通に帰省するもんだと思っていた。

「え、だって実家に帰省は?俺、そのつもりでバイト入れちゃった……」
「私そんな事言ってないよ?礼君、どうして勝手に決めちゃうの……?」
 夏休み前、バイトを入れる日は二人の予定で決めると言ったのは礼義だ。

 哀しそうな顔。今にも泣き出しそうな。
 折角のデートなのに。
「ご、ごめん。俺はただ……」
 謝るが、時既に遅し。
「……もういい。ごめん、私帰るね」
 引き止める間もなく、智はそのまま帰ってしまった。
「……何やってんだ、俺……」
 すぐに追わなかった事を、少し後悔した。


 夜になって謝罪のメールを送ると、すぐに電話が掛かってきた。
『礼君、ごめんね?急に帰ったりして……あのまま一緒にいたら、礼君に酷い事言いそうで怖かったの……』
 落ち込み気味の声が聞こえてきて、礼儀は慌ててフォローする。
「いいよ、勝手な事した俺が悪いんだから。それで、さ……お盆辺り、一日なら休めそうだからどっか行こ?」
『本当に……?嬉しい……』
 はにかんだような智の笑顔を思い浮かべ、礼義は自然に顔がにやける。
「じゃあ、詳しい事はまた今度決めよ?……声聞けて嬉しかった。お休み」
『私も、声聞きたかったから……お休み、礼君』
 電話を切ると、礼義は思わずガッツポーズをしていた。


 お盆の時期になって、デート当日。
 何となく気ばかり急いて、一時間も早く待ち合わせ場所に着いてしまった礼義に、一通のメールが届いた。
「……え?」

『急用が出来たので行けなくなりました。ごめんなさい』

 それは智からのデートのキャンセルを伝える内容で。
 礼義は慌ててメールを返す。
『気にしないで。明日なら平気?』
 バイトの事は後で何とかしようと思いながら、返事を待つが。

『……当分約束は出来そうもないの。本当にごめんなさい』

「何で……智ちゃん……」
 返って来た内容に、不意に胸に不安がよぎる。
 しかし礼義はその不安を無理矢理打ち消した。
『そっか、分かった。じゃあまた夜にでもメールちょーだい』
 だが、今度は智からの返信はなかった。