礼義がそんな事を思っていると、智はボソッと呟く。

「……愚兄と愚弟……」
「え?」

 ぐけー?
 ぐてー?
 何だソレ。

 頭の中で漢字変換できずに考えてしまう。
 すると今度は慌てたように訂正する。
「あ、ううん。えっと……私の兄弟達なの……」
 心底嫌そうにそう言って、智は溜息を吐く。
「兄弟ぃ〜?」
 思わずそんな情けない声が出た礼義は、改めて男二人を見る。
 と、愚兄、愚弟と智が呟いたのが聞こえたのか、ショックを受けて落ち込んでいるように見えた。
「向かって右が兄の仁(ひとし)。左が弟の忠(ただし)」
 ちなみに先程智の腕を掴んだのは兄の方らしい。
「ごめんね、礼君。その……この人達シスコンで……だから会わせたくなかったの。今日帰るって言うから、早く礼君に逢いたくて。なのに私を実家に連れ戻そうとするんだもん……」

 何だ、そっか。
 そうだったのか。
 コレで合点がいく。
 彼女が実家に帰らないって言ったのも。
 ここ最近急用で逢えなかったのも。
 全て彼らのせいで。
 昨日のだって、兄弟で一緒に買い物してただけ。

「じゃあ、寮生活なのも……?」
「うん。いつもこの二人が干渉してくるから、もうウンザリで……このままじゃ、彼氏も出来ないまま一生が終わっちゃいそう、って思ったもん」
 それは少し拗ねたような物言いで。

 ……まぁシスコン二人にがっちりガードされてちゃ無理な話だよな。

 でも。
 それなら俺は、彼女に好かれているのだろうか?
 “彼氏”という存在が欲しかっただけで、それが“伏見礼義”である必要はあるのだろうか?

 そんな不安に駆られていると、智が口を開いた。
「……でもね?私、男の子とどう話せばいいか分かんなかったし、周りからも真面目で大人しい子って思われてて。告白されてもパニックになっちゃって、いつも断ってた。……礼君の時もそう。朱夏と璃琉羽がいなかったら、断ってたと思う」

 ……周りに人が大勢いる中での告白は大抵の人が断ると思うが。
 むしろ友達に言われたからといってOKする方が珍しい。そういう意味ではあの二人にマジ感謝。

「最初は本当に男の子と付き合うって、不安とかあったんだけど……でも礼君毎日逢いに来てくれたでしょ?凄く、嬉しかった」
「や……それは、だって逢いたかったし……」
 礼義がそう言うと、智ははにかむような笑顔を見せる。

 あーもー。本当マジ可愛い。