悩みは解決する事なく、ただ時だけが流れ、初音は大学二年になっていた。
 そんなある日、同じ講義を取っている友人に声を掛けられた。
 “合コンに行かないか?”と。
 勿論人数合わせの為だが、それでも誘われたのは初めてだ。
「最近元気ないし、いい気晴らしになると思うよ?」

 おそらくは、時音が思い悩んでいる原因を、気の進まない相手との縁談話、と思ったのだろう。
 当たらずとも遠からず、といった所だ。
 初音の立場としては、本当はそんな所へ行くべきではないと分かっていたが、気を紛らせたくて参加する事にした。


 その合コンの席で、初音は一人の男性と知り合った。
「初めまして。盾波虎太郎です」
「こちらこそ初めまして。向井初音です」

 初音は初対面の人間には、本名を名乗らない事にしている。
 コレも身を守る為の手段の一つだ。
 向日姓を名乗れば、その殆どの人間が眼の色を変える。
 それ程までに、向日の名は有名で影響力が強い。

 話を聞くと、虎太郎も人数合わせの為に呼ばれたようだった。
「では、彼女が?」
「いいえ、今は誰とも。あまりこういった場は好きではないんですけどね」
 お互いに補充要員という事で、初音と虎太郎はずっと二人で話していた。

 虎太郎は初音より二つ上の大学四年生で、そろそろ就職活動を始めるのだという。
「では、もう殆ど講義はないのですね。短大は結構ギリギリまでありますから」
「そうですね。ですが、代わりに卒業論文の内容にレベルが高いものを求められますから。そんなに余裕ばかりでもないですよ」

 話をしていて初音は、ふと和幸に似たタイプの人だと思った。
 けれど、和幸には無いモノを虎太郎が持っているような気がした。


 そうして合コンが終わり、店を出た時だった。
「初音さん。よろしければこの後、二人だけでもう少しお話しませんか?」
「え、でも……」
 虎太郎に誘われて嬉しい反面、これ以上は立場的に断った方がいいだろうと考える。
 すると、初音が口を開く前に虎太郎が言った。
「……無理にとは言いません。もう少しだけ一緒にいたいなっていう、俺の我侭ですから。ただ……何か思い悩んでいる事があるようで、気になったんです」
「え……」
「あぁでも、そういう事は婚約者の方に相談した方がいいか。……すみません、忘れて下さい」
 そう言われて初音は、何故だか虎太郎に聞いて欲しいと思った。
 どの道、和幸に相談できる内容ではないし。
「あ……あの、ご迷惑でなければ……私の話を、聞いて頂けませんか……?」
「……はい、勿論」
 そう言って虎太郎は微笑んだ。