虎太郎の家は、すっきりとした外観の二階建てのアパートの一室だった。
 中は小ざっぱりとしていて、必要最低限の物しか置いていないという感じだった。
「どうぞ、その辺に座ってて下さい。今、冷たい飲み物を用意しますので。コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「あ、じゃあ紅茶で……」
 虎太郎が飲み物の準備をしている間、初音は何だかソワソワして落ち着かなかった。

「どうぞ」
 初音は少し落ち着く為に、目の前に置かれたアイスティーを一口飲む。
 だが、虎太郎が普通に隣に座った為、逆に落ち着かなくなった。
 二人は暫し無言で。
 先に口を開いたのは虎太郎だった。
「何か、不思議な感じです。初音さんが俺の部屋にいるなんて」
「私もです。こうして虎太郎さんと二人きりでいるなんて……何だか夢みたい……」
「……じゃあ、これが現実だって、確かめてみましょうか?」
 イタズラっぽく微笑った虎太郎の瞳の奥に、蠱惑的な光が宿る。
 初音はその瞳に捕らわれてしまったかのように、瞳を逸らせなかった。
 頬に手が添えられ、ゆっくりと虎太郎の顔が近付いてくる。
「こ、たろ…さ……」
 初音は一瞬戸惑ったが、目を閉じ、静かにキスを待った。
 唇に柔らかい感触が触れ、すぐに離れる。
 だが、またすぐに、今度は啄ばむようにして、何度も何度も虎太郎からキスが与えられた。

「初音さん……愛しています」

 その言葉に初音がゆっくりと目を開くと、そこには自分を愛しそうに見つめてくる虎太郎の温かい眼差しと、優しい微笑みがあった。
 それだけで、初音は泣きたくなる程、幸せな気持ちで一杯になった。

「私も……虎太郎さんを愛しています」

 初音は頬に添えられた手を包み込むように握り、目を閉じて愛しそうに頬擦りする。
「初音さん、こっち向いて……」
 初音が再び虎太郎の方に顔を上げると、今度は深いキスが降ってきた。

 そうして虎太郎は初音をギュッと強く抱き締める。
「本当は、こんな事を言うべきではないんでしょうが……ずっと俺の傍にいてくれませんか?あなたの隣にいるのが、俺でありたいんです」
 欲しかった言葉。
「私を連れて、逃げてくれますか……?」
「貴女が逃げたいと言うのであれば、俺は喜んでその手を取りますよ?」
 欲しかった答え。
 その事に初音は嬉しくて泣き出してしまう。
「……何だか泣かせてばかりですね、今日は」
「だって……嬉しくて……」
 そうして初音は、暫く虎太郎の腕の中で泣いた。