「ねぇ、虎太郎さん」
一仕切り泣いて落ち着いた初音が口を開いた。
「何です?」
「私達の事を、清美と和幸さんに……妹と許婚に話しちゃダメ、ですか……?」
おずおずとそう言う初音に、虎太郎は優しい瞳を向けて聞く。
「どうして?」
「だって、私が今のままいなくなったら……」
初音の言いたい事を理解して、虎太郎は頷く。
「……あぁ、前に話してましたね。本当は二人は両想いなのにって」
「そう。……私が黙っていなくなったら、もし二人が結婚する事になっても、きっと気持ちは擦れ違って、幸せにはなれないと思うの」
「……」
だが虎太郎は難しい顔をする。
「ダメ……?」
初音は不安そうな表情で、恐る恐る聞いた。
ダメって言われたらどうしよう。
あの二人には、幸せになって欲しいのに。
だが。
「俺は初音さんのそういう優しい所、好きですよ。だから、貴女のしたいようにすればいい」
「虎太郎さん……ありがとう……!」
虎太郎の言葉に、初音はパァッと表情を明るくさせた。
清美と和幸に自分達の事を話す時に虎太郎も同席してくれると言ったので、全員が都合のいい日を選んで、二人を喫茶店に呼び出した。
「姉様、お話って何ですか?」
「僕と清美さんに話があるのであれば、別に外でなくとも……」
「家では……話せない理由があるんです」
怪訝そうな表情で目の前に座る清美と和幸にそう言って、初音は店の入り口をチラッと見る。
まだ虎太郎が来ない。
彼がいなければ意味はないし、話を切り出す事もできない。
俯き加減でただジッと虎太郎を待つ初音に、そうとは知らない清見と和幸は、それでもいつもと違う雰囲気を感じて、彼女が口を開くのを待つ事にした。
「すみません、遅くなりました!」
「虎太郎さん!」
約束の時間を30分程遅れて、ようやく虎太郎が店に姿を現した。
その事に初音は安堵する。
そうして虎太郎が初音の隣の席に着くと、初音はようやく話を始めた。
「清美。和幸さん。紹介します、この方は盾波虎太郎さん。今現在……私がお付き合いしている人です」
「「!?」」
キッパリとそう言う初音に、清美も和幸も驚き、動揺を隠せない。
「姉、様……?それって、一体……」
「初音さん、ご自分の立場を分かっていらっしゃるんですか?」
「分かっているつもりです」
そう言って初音は虎太郎をチラッと見る。
すると虎太郎は大丈夫だとでも言うように、微笑んでくれた。
だが清美は今にも泣きそうな程、瞳に涙を浮かべ、声を上げた。
「和幸さんがいるのに、姉様は何を考えているの!?これじゃあ和幸さんが……!」
初音は責められるのは覚悟の上だったが、やはり実際に目の当たりにすると、申し訳ない気持ちになった。