清良がどう説明したものかと困っていると、春斗が助け舟を出した。
『清良さんは普段から、僕の言いたい事なら大抵分かってくれますよ』
「ん……まぁ、一緒に暮らしてれば慣れとかもあるし」
清良がそう言うと、華蓮は驚きに目を瞠って清良をキッと睨み付けてきた。
「一緒に、暮らしてるですって……?」
「そうだけど……え、春斗。アタシの事、何て説明したの?」
『説明しようと思ったんですが、彼女が次から次へと話題を出すもので……』
困ったような表情でそう説明する春斗に、清良は溜息を吐いて華蓮を見る。
「……アンタ、アタシの事何だと思ったの?」
「……ただの友達か、仕事仲間。それより春斗、一緒に暮らしてるってどういう事?」
清良の問いに嫌そうに答えた華蓮は、春斗に向き直ると縋り付くような態度と眼差しを向ける。
聞かれた春斗は最初、手話で答えようとしたのか手を動かしかけて、だがペンを持ってメモ帳に書いた。
『彼女は僕の大切な恋人です。僕が彼女を、ココに繋ぎとめている』
その言葉に清良は顔を真っ赤にし、反対に華蓮は顔を青ざめさせる。
そうして春斗は、真っ直ぐに清良を見つめていた。
視線に気付いた清良は、春斗の瞳の中に甘さと憂いを見つけて苦笑する。
「バカだなぁ……アタシは縛られてる訳じゃないよ」
すると春斗は嬉しそうに破顔した。
春斗は清良に対して、彼女を自分のエゴで縛り付けているんじゃないかと危惧していて。
でも清良だって、好きでココにいるのだ。
春斗が気にする事ではない。
だがその二人の、言葉が少ない会話を理解できない華蓮は激しく憤る。
「待ってよ春斗!どうして?こんな人が春斗の事、理解できてるとは思わない!」
「……どういう意味だよ」
「だってそうでしょ!?こんなメモを使わなきゃ会話すらできないクセに!
一緒に暮らしてるって言っても、どうせ半年も経ってないんでしょ?そんなんで理解なんてできるわけない」
「手話はまだ覚えてる途中なんだよ。メモ使って会話したっていいだろ」
「それに何?その言葉遣い。まるで不良と話してるみたい。ねぇ春斗。こんな人、春斗には似合わないよ」
「っ……」
不良みたい、ではなく、清良は本当に不良だった。
その事を第三者から指摘されて、清良は何も言えない。
本当に、春斗みたいな普通の人に、自分が釣り合うわけない……。
そう思った事だって、何度もあるから。
「春斗には私がいるでしょ?さっきも話したように、高校はこっちで探そうと思ってるの。そうしたら一緒に住めるし……」
その言葉に今度は清良が目を瞠った。
高校?一緒に住む?
さっき手話で話してた内容が、これ?
だとしたら。
春斗は了承したんだろうか?
もしそうなったら、春斗はアタシがいなくても寂しくなくなる。
手話ができる方が話もスムーズだし、親しい従妹なら気心の知れた仲だ。
他人のアタシが、いなくても……。
でもそんなの……嫌だ。
それでももし、春斗に出て行けって言われたら……。
不安が押し寄せてきて、どんどんよくない方向に考えを巡らす清良を、何かがふわっと包み込んだ。
「春、斗……?」
清良が顔を上げると、春斗が優しく微笑んで、そっと髪を撫でてくれている。
その事に清良は、無性に安堵して目を閉じる。
そうして暫くすると、玄関の方でドアが閉まる音がした。
「え……彼女、は?」
部屋の中を見回すと、そこに華蓮の姿はなかった。
『お引取り願いました。もう大丈夫ですよ?僕は清良さんを決して追い出したりなんかしませんから』
「春斗……アタシ、ココにいても、いいの……?」
『どこにも行かないで下さいと、言ったでしょう?』
「うん……ココにいる」
春斗が華蓮とどういう会話をしたのか、どうやって帰ってもらったのか、清良には全く分からない。
ただ一つ確かな事は。
自分がココにいてもいいと、春斗に受け入れてもらった事だけだ。
そうして、傍にいる事で自分も、春斗も幸せになるという事。
以心伝心。それは二人の心の、深い繋がり。
=Fin=