≪おまけ≫


 それは、もう冬の気配が近付いてきた秋の終わり頃。
 夕食を食べながらテレビを見ていた時だった。

 テレビの中で、この時期にもう既に花を付けている桜を見つけたリポーターが、土地の所有者に質問をして。
『この桜は十月桜と言って、今の時期と春に二度花を咲かすんですよ』
 そう答えが返ってきた。

「……マジか」
『清良さんに教えて頂いた桜と同じ品種のようですね。僕はてっきりソメイヨシノだとばかり思っていました』
「アタシもだよ。あれって、元々ああいう咲き方する桜だったんだな……なんか、スゲー特別な何かがあるんだと思ってた」

 テレビでは、冬の時期は珍しいから多くの人が見に来るが、春になると誰も見向きもしない桜だ、と言われていて。
 それはそうだろう。春になれば多くの桜が満開になるのに対して、その桜は春になっても少量しか花を付けていない為、どうしても見劣りしてしまうのだから。

「ははっ……誰も見向きしない、か」
 自嘲気味に笑う清良の頬に、春斗はそっと手を寄せる。
『誰も、じゃないですよ。少なくとも清良さんは見ているでしょう?』
「ん……そうだな」
『もうあの桜も花を付けている頃じゃないですか?今度見に行きましょう』
「春斗……ああ」
 二人はそう約束して。


 数日後。
『清良さん。あれからちょっと十月桜について調べてみたんですが……』
「ん?どうかしたのか?」
『十月桜は八重咲き……つまり花弁が幾枚も重なっているんだそうです』
 春斗の説明に、清良は首を傾げる。
「え?でもあの桜の花弁は五枚じゃん」
『ええ。それで更に調べたんですが、二度咲きの桜っていくつか種類があるみたいなんです。秋から冬にかけて咲く桜のことを総称して「冬桜」って呼ぶ事もある そうなんですけど……一般的に冬桜といわれる小葉桜という品種がそうではないかと』
「小葉桜?」
『萼筒、つまり枝と花の間に茎のような部分があるでしょう?小葉桜はそれが紅色で太めで花弁は五枚なんです』
「うん、そう。それだ」
『実は、ソメイヨシノも同じように萼筒が紅色で花弁五枚なんです。どうして似てるか分かりますか?』
「……アタシに分かる訳ないじゃん」
 春斗の出した問題に、清良は少しだけ拗ねたようにそっぽを向く。
『ソメイヨシノも小葉桜も、園芸品種なんです。ソメイヨシノはコマツオトメとオオシマザクラ。小葉桜はマメザクラとオオシマザクラの交配種と考えられているんです』
「……つまり、片親が違う兄弟みたいなモンか?」
『そうですね。小葉桜の方はまだ推定の域を出ないみたいですが……そう考えると似ていて当たり前なんですよね』
「知らない奴が見たら、間違えるのも無理はない、か」
 それにしても。
「よくもまぁ、わざわざ調べたな」
 呆れたようにそう言う清良に、春斗は苦笑しながら言う。
『気になった事は調べる性分が身に付いてるのかもしれませんね。普段から翻訳の仕事で、色々調べながらやっていますから』
「どこが気になったんだ?あのテレビは花弁まで詳しく映さなかっただろ」
『そうなんですけどね。ほら、二度花を咲かせるって言ってたじゃないですか。でも実際にはあの桜はずっと咲き続けているんでしょう?』
「ん……まぁ、そうだな」
『調べた所、十月から翌春まで白色の花が咲き続ける、と表記してあるものもあったので、納得しましたが』
「……良かったな」
 絶対、自分には真似できないな、と思いながら、清良はそう言った。


=Fin=