目を覚ました春斗は、片腕に感じる僅かな重みに顔を向ける。
するとそこには、ベッドの脇に突っ伏して眠る清良の姿があって。
その光景に、心が温かくなるのを感じながら、フッと笑みを浮かべる。
そうして、起こさないようにそっとベッドを抜け出すと、清良に毛布を掛けて部屋を出る。
付けっぱなしのノートパソコンには、病気の看病に関するサイトが開いてあって。
台所を覗いてみれば、焦げ付いた土鍋が流しにある。
予想通りの状態に少し苦笑して、春斗は汗でべた付いた衣服を着替えると、再びベッドに戻る。
そうして、スヤスヤと眠る清良の寝顔を見ながら、春斗は思う。
熱を出したのなんて久し振りだ。
喉の手術直後は仕方なかったけど、それ以来かもしれない。
特に一人暮らしを始めてからは、体調にはそれなりに気を使ってたハズなのに。
……やっぱり、清良さんが傍にいるからかな。
清良さんは不器用だけど、いざという時は頼りになって。
優しいし、一生懸命だから。
だから少し、気が緩んだのかもしれない。
一人じゃないから。
病気になっても、絶対に清良さんは看病してくれるだろうから。
心のどこかでそう思っていたから。
でも、熱を出した事で、随分と心配を掛けてしまったから。
治ったら、ちゃんとお礼しないと。
そうして清良の頭をそっと一撫でしてから、寝ている彼女の手を繋いで。
春斗は再び目を閉じた。
暫くして、清良がようやく目を覚ます。
「ん……あー……寝ちゃってたか……」
頭を掻いてあくびをしながら、そこでふと違和感に気付いた。
「毛布……」
肩に掛けてある毛布は、当然春斗の仕業だろう。
それと。
「……ちゃっかり手まで繋ぎやがって」
繋がれた手を見て、嬉しいやら恥ずかしいやらで、清良は複雑な表情をする。
「今日だけだからな……」
どうせ、恥ずかしくて外で手を繋ぐなんてできないのだ。
だからといって、家の中では必要ないし。
こういう時ぐらい、まぁいいかと思う。
「早く治せ、バーカ」
そう呟いて、清良は笑みを浮かべた。
次に春斗が目を覚ますと、そこには清良の姿はなくて。
その事に少し残念に思いながら、自分の体調を確認する。
ぐっすり寝たからか、先程起きた時よりも、随分頭がスッキリしている気がする。
どうやら熱も大分引いたようだ。
体の方も、だるさは殆どなくなっている。
その事にベッドから出ようとすると、丁度清良が部屋に入ってきた。
「あ、春斗!まだ寝てろよな!」
清良は咎めるようにそう言うが、春斗は首を横に振る。
『大丈夫ですよ。もう大分楽になりましたから』
「でも、まだちょっと顔が赤いぞ?いいから寝てろ」
眉を顰める清良に、春斗は素直に従う。
それを見て清良は手に持っていた袋から色々出してきた。
「今、薬とか買ってきたんだ。あ、その前にちょっと熱計ってみるか」
そう言いながら、清良はすぐに体温計を持ってきて。
「ほら」
差し出された体温計で熱を測ると、微熱にまで下がっていた。
「まだ少し熱あるな……じゃあ、またお粥でも作るからさ。食べたら薬飲んで、額にこれ貼って寝る事。いいな?」
言い聞かせるようなその言葉に春斗が頷くと、清良はニッと笑う。
「よし。んじゃ、ちょっと待ってろ」
そうしてまた部屋を出て行った。
その背を見送りながら、春斗は笑みを溢す。
言葉はぶっきらぼうだったりするけど。
一生懸命、甲斐甲斐しく世話してくれる様子からは、清良なりの優しさが伝わってきて。
春斗は、もう少しだけ甘えてみようかと、そう考えた。
=Fin=