状況を把握した怜人は、納得したように頷く。
「成程ね……何となく読めたな」
「どういう事ですか……?」
「向日の会長、つまりお前のじーさん。かなり危ない状態で、いつ死んでもおかしくないらしい」
「祖父が……」
怜人の言葉に、幸花は沈んだ表情になる。
厳しい人だったし、両親もあまり祖父の事はよく思っていなかった。
まぁそれは龍矢の母親が関係している事なのだが。
事故後は全く顔も合わる事もなく、龍矢の所に住むようになってから疎遠になってはいたが、やはり自分に近しい人の死はやりきれない物がある。
「話を続けるぞ。もし向日の会長が死んだら、遺産を相続するのはお前とその龍矢って奴だ」
幸花の祖父である向日会長は、数年前に妻を亡くして現在独り身だ。
それに、本来遺産を相続するはずの娘は二人とも死んでいる。
そうなると法律上、孫である幸花と龍矢に遺産がいくのは当然の事だ。
「だけど向日の奴らはわざわざ相続人を増やすような面倒臭せぇ事はしないだろうし、じーさんだって、
縁切った娘の子供の事なんて鼻にも掛けちゃいないだろうさ。だから恐らく、全ての遺産はお前に行く」
その言葉に、幸花は一年前、両親を失った時の事を思い出す。
「……また、同じ事の繰り返しになるんですね……」
遺産相続をするのが幸花一人なら、それを横取りするのは容易いだろう。
「今回はタチ悪ぃぞ。俺の両親はどうやら向日本家の立場が欲しいらしい」
「それって……」
「俺の母親は元々向日の分家の人間だ。それがお前の義母になれれば、向日の中で絶対の権力が握れる。それこそ、
自分の弟である向日グループの現社長よりもな。今の所、真嶋の家は向日の傘下という形だから、どうしたって立場は下だ。
それを逆転させるんだから……事実上の乗っ取りだな」
幸花にとっては何だか難しい話だが、相当ややこしい事に巻き込まれたという事は分かった。
今この時期に彼女が動いたのも、多分それは幸花自身が結婚できる年齢に達したからだ。
戸籍上だけでも婚姻が成立すれば、目的は達成できるのだから。
「待てよ……って事は俺、下手したら婿養子にされるトコだったのかよ!?」
怜人はそう言って、ありえないという表情で大きく溜息を吐いた。
「……まぁどの道俺にはもうちゃんと決めた相手もいるし。お前もその龍矢って奴が好きなんだろ?」
「はい」
「っつーかそいつ、俺のはとこになるのか。お前とは従兄妹だけど」
「……え?」
母親の従姉の子なのだからはとこ、というのは分かるが……。
「あれ、知らない?俺の親父、お前の父親の兄」
「そう、だったんですか……」
「今まで会った事ねーけどな」
びっくりだ。
今までずっと遠縁の人だと思っていたのに。
「さて、これからどうするかだけど……龍矢って奴の番号分かるか?確か携帯取り上げられてただろ。俺の使っていいから。……この話、盛大にぶち壊してやろうぜ」
その何かを企んだような意地の悪そうな笑みに、幸花もここにきてようやく少しだけ笑みを見せた。