『あらあら。龍矢ったらどうしたの?ほら、おいで。よしよししてあげるから。いっぱい泣いて、涙とサヨナラしようね』
見透かされた気がした。
本当は、泣いていた。
心の中で。
ただ、誰にも見せたくはなかった。
自分は、もう一人なのだから。弱い部分は見せられないと思った。
でも……壊れてしまいそうだった。
壊れそうな心を、必死に繋ぎ止めていた。
尊敬していた父。
優しかった母。
大好きな二人を一度に亡くし、それでも立ち止まる事は許されなかった。
それを、この子は……。
龍矢は、急に目の前の幸花という少女に縋りたくなった。
その小さな体を抱き締めて、涙を流す。
幸花は、ずっと頭を撫でていてくれた。
「幸花ちゃん、もう平気だよ。ありがとう」
「うんっ!」
元気のいい返事に、満面の笑み。
何だか救われた気がした。
一人じゃないよ、と言われている気がした。
「あ。おにいちゃんのおなまえまだだった……」
「龍矢、だよ」
名前を知らない事に気付いた幸花が沈んだ表情をしたので、慌てて答える。
「りゅーや、おにいちゃん……?りゅーやおにいちゃんっ!」
名前を知ると、途端にパッと笑顔になって抱き付いてきた。
その笑顔が、ずっと続くといいと思った。
「花のような笑顔で皆に幸せを与える。幸花にぴったりの名前だな」
話し終えた龍矢が、呟くように言う。
「何で、それ知って……」
「俺の母親がよく言ってたんだ。女の子だったら絶対付けたい名前だって。幸花のお母さんとは姉妹だから、それでじゃないか?」
「……はいっ」
こんなに安らかな気持ちで、あの頃の話が出来るとは思わなかった。
幸花と再び出会えて、龍矢は自分がかなり変わったかもしれないと思った。