年が明けて暫くしてから、幸花の様子が少しおかしい。
 何かに悩んでいるような、何かを隠しているような、そんな感じ。
 一体、何があったのだろうか?
「幸花、最近何かあったのか?」
 普通に聞いたのに、幸花は傍から見ても判る程、びくっと肩を震わせた。
「う、ううん。何も……ない、よ?」
「……そうか」
 挙動不審。
 手や首は大袈裟なほど振るし、目線も泳いで一点に定まらない。
 それでは何かあったと言っているようなものだ。
 ……調べてみるか。


 龍矢は中等部に行き、幸花の担任にそれとなく彼女の様子を聞く。
 幸花の事情を知る数少ない先生方の一人。
 だが、その事情を知る人から見ても、特に変わった様子はないらしい。
 ただ。
「……成程、ね」
 一つだけ、原因と思われる事が見つかった。


 夕食時、ああそういえば、と突然思い出した風を装って探りを入れる。
「そろそろ入寮希望申告書っていう紙が配られてる筈だけど」
「!……まだ、だよ?」

 当たりか。
 本当はもうとっくに配られているし、しかも提出期限間近の代物だ。
 これを出さないと、春から寮には入れない。
 何はともあれ理由は分かったのだし、早々にこの問題を片付けてしまおう。

 これ以上、幸花の暗い顔を見ていたくなかった。
「幸花、嘘は良くないな。本当はもう配られてるのは知ってるんだ」
 嘘……と幸花が小さな声で呟くのが聞こえた。
「本当は寮に入りたくないんだろ?怒らないから理由を言って?」
 安心させるように優しく言って、龍矢は微笑んでやる。
「……寮には、ちゃんと入るよ?心配しないで」
「無理するな。入りたくないならそれでいいんだから。むしろ、そっちの方が俺も助かるっていうか……ただ、理由は聞かせて欲しい」
 すると、幸花は俯いて黙ってしまった。
 何か言えないような理由でもあるのだろうか?

 ……まさか、寮の費用の事を悩んでるんじゃないだろうな。
 それなら遠慮する事なんかないんだが。

 そう思って龍矢が口を開きかけた所で、先に幸花が口を開く。
「……龍矢お兄ちゃんと……一緒に、いたいの……」
 振り絞るように、小さく呟くように言われたその言葉。
 だが、その一言が妙に嬉しかった。
「そっか。……いいよ、幸花。ここにいたいなら、ずっといればいい」
「でもっ……私、邪魔じゃない……?」
 龍矢は一瞬、邪魔ってどういう意味だ?とか思いながら答える。
「別に?幸花は俺の従妹だろ?妹が出来たみたいで嬉しいし、それに保護者代わりでもあるんだぞ。邪魔なんかなもんか」
 しかし、それを聞いた途端、幸花の様子が変わる。
「そう、なんだ……」
 何か、酷く傷ついたような。
 そんな顔。

 何かマズイ事でも言ってしまったのだろうか?