≪納得いかない≫
「……おかしい」
気の許せる親友達との飲み会で、陽平はそう呟いた。
「は?何が?」
「あー、お前今、新しい女、堕としてるんだろ」
「へー。どんな子?」
「人見知りの激しい新入生」
「ハッ!これまた難しい相手を選んだもんだねー」
その言葉に、ニヤリと口の端を上げて陽平は言う。
「難しければ難しい程、堕としがいがあるんでね」
「……んで?おかしいって何よ」
最初の質問に戻って、陽平は難しい顔をした。
「三ヶ月もいい先輩を演じてるのに、それでもまだ少し警戒されるってどうよ」
「……“あの”お前が?」
「ああ」
「へぇ?その子興味あるな。もっと詳しく教えろよ」
そう言われて陽平は簡単に今までの状況を説明する。
「……まぁ、そうやって色々作戦を実行に移したんだけどな。他のヤロー共よりは、信用を勝ち得てるとは思うんだけど。実際、彼女と話せてる男は俺だけだし?」
すると陽平の親友達は、溜息を吐いた。
「そんな今時、天然純情培養で育ったような女の子が、こんなサイテーなヤローに狙われてるかと思うと……不憫だねぇ」
「そうそう。こんな奴の毒牙に掛かるかと思うと、おにーさん悲しくて泣いちゃうよ」
「アホか、テメーら」
陽平はふざけて泣き真似をする親友達を、一蹴する。
「まぁでもさ。確かにおかしいよな。裏なんて何にもないような猫被った好青年のお前に警戒するなんて」
「それだけ警戒されてるなんて、お前なんかヘマやらかしたとか」
「してねぇよ」
「あれじゃねぇ?いっつもお前、女に囲まれてっだろ」
「はぁ?何言ってんだよ。誰にでも平等に優しーく接してるんだぜ?群がってくる女と二人っきりになった事はない」
「いやいや。相手は天然純情培養ちゃんだからな。誤解してるとか」
「それこそありえないね。遊び人には見られないように、囲まれてもすぐに誰か知り合いの男見つけて、女除け目的でそっちに行くから」
そう。警戒心を解かせる為には、言い寄る女には目もくれないと、あからさまにアピールする必要がある。
その為の努力は普段からしている事だ。
「じゃあホモって……」
「……生き地獄でも見てみるか?」
陽平は極上の笑顔でそう言う。
「……すんません、もう言いません」
「あ、その子の友達がお前の事好きになったとか!それで“協力して〜”って言われてる」
「バーカ。その前の段階だって言ってるだろ?それに、今の所モーションはかけられてない」
「……そうか。警戒されてるから、次の段階に進めないんだな」
「あ。その子が男嫌いで、レ……」
「そんなに地獄が見たいか?」
「……遠慮します」
「何にしても、だ。ここまで苦戦したのは初めてかもな」
「お、陽平から弱気発言」
「もう止める?」
「バカ言え。今回は相手のリサーチ期間も兼ねて半年が目標設定。まだ折り返し地点だ」
「……お前にしちゃ長いな」
驚いたようにそう言う親友に、陽平は別に、と答える。
「今までの女は学内でもそれなりには有名で、どういったタイプかとかは事前に知る事が出来た相手ばっかだろ?」
「そういやそうだな。男に堕ちないって噂の女ばっか狙ってきたんだし」
「だろ?だけど彼女は新入生。どうも女子校育ちらしくってな。情報が少ねーんだよ」
「本人から少しずつ聞き出して、そっから作戦立ててるから?」
「そういう事」
そんな風に話をしながら、陽平は次にどんな作戦で行くか考えていた。
彼女――真雪に関して、納得いかない点は多々ある。
だけど。
このゲーム。勝つのは俺だ。