次の日、強制的に雑用の居残りをさせて。
 そこでも最初咲は答えず、面白半分に耳元で囁くと顔を真っ赤にさせて。
 理由は結局下らない事だったが、ちょっとの事ですぐ顔を真っ赤にさせるから、こいつ面白れーとか思って。


 だから、その時はまだ気付かなかった。
 歯車が回りだした事に。


 あれから数日。
 咲が最近俺の事をよく見ているのは知っている。
 授業中だとか、HRだとか。
 目が合いそうになると、慌てて視線を逸らして。
 バレバレだっつーの。
 だけど俺は敢えて気付かないフリをした。

 だって相手は生徒だぞ?手を出したら、それこそ犯罪だし。
 告白されて振ったとしても、その後がギクシャクするのは目に見えている。
 他のクラスの奴なら、授業以外で関わる事はないからまだいい。
 ……弓道部員ならまた話は別だが。
 だが咲は俺のクラスの生徒。色々支障が出ると困る。
 彼女には少々酷だが、今のこの状態を保つのが一番ベストだ。
 告白する隙を与えず、期待を持たせず。
 唯一つ問題があるとすれば。
 咲の下宿先である自分の実家に迂闊に帰れないという事。
 私生活で会うのはまずい事この上ない。

「やっぱこの間のアレがまずかったかなぁ……」
 ほんの少しからかう程度のつもりだったのに。
 ていうか、今時の女子高生が耳元で囁いただけで堕ちるか?
 ……いや、咲は少し違うか。
 髪は染めてないし、服装もきちんとしてるし、授業態度もいたって真面目。
 他の先生方の評判も良いし、俺のクラスの中では一、二を争う模範生徒。
 こうして考えると悪い所が無い。ある意味純なのも頷けるかも……って何考えてる俺。
 咲は優秀な生徒。それで十分じゃねーか。
 そもそも何で俺なんだ?ハッキリ言って俺は生徒に好かれるタイプじゃないと思うし、実際嫌われてると思う。
 咲に対しても意地悪しかしてないし、嫌われるならまだしも好かれるってどういう事だ?
 頭おかしいんじゃねぇのアイツ。


 そうして考えは堂々巡りし、結局直樹はズルズルと咲の事を考えるようになっていた。
 直樹自身も気付かない内に。