GWが明けて、咲は少し憂鬱だった。
 GW中、おばさんが直樹に帰って来るようしつこく電話していたが、彼は結局帰ってこず。
 おばさん曰く。
「あの子、帰ってこいって言っても来ないのに、時々フラッと何の連絡も無しに帰って来るの。長い休みの時くらい、顔見せに帰ってこればいいのに」
 らしい。
 そういえばこの間もそうだっけ。
 ……じゃなくて。
 確かに残念ではあったが、咲の憂鬱は別の所にあった。


 GWが明けると中間テストがあり、その後、一年生にとって最初の大きな行事である、野外生活がある。
 まぁ簡単に言えば、林間学校みたいなものだ。
 体験学習と称してのウチワ作り。(何でウチワ?)
 手作りのカレー。(キャンプじゃんっ)
 オリエンテーリングと称しての山歩き。(部活やってない身としてはホントキツいって……)
 咲としては、あまり歓迎したくない行事だ。
 まぁ料理は好きだからいいけど……。
 とにかくどこかの山奥(咲には興味が無かった)の保養所みたいな所での一泊二日の生活。
 咲にとって唯一の救いは、直樹といつもより長くいられる事だろうか?


「えーっ!?幸花(さちか)ちゃん、野外生活不参加なのーっ?」
 野外生活数日前のお昼休み。ご飯を食べていると、桃花がそう声を上げた。
 最近咲は、桃花ともう一人、向井幸花という子と一緒にお昼を食べている。
 幸花は咲と同様、桃花の名前の中に同じ字がある、という理由がきっかけで仲良くなった。
「うん……私車酔い酷くて、酔い止め飲んでも長時間車に乗るのキツいんだ」
 それを聞いて、野外生活不参加が羨ましい反面、ちょっと可哀相に思った。
 だってそれって、殆ど何処にも行けないって事でしょ?
「野外生活当日は学校に来て、課題プリントが出されるみたい。だから私の分まで楽しんで来てね」
 その言葉に、咲と桃花は笑顔で返事を返した。


 野外生活当日。
 何時間もバスに揺られてやって来たのは、見事に周りを沢山の木々や山々に囲まれた場所。
 流石に都会と違って空気が美味しい気がする。
 そうしてまず最初の地獄。
 重たい荷物を持って、保養所までの道程を歩く事となった。
 時間にして約二十分。しかも上り坂。
「とーかぁ……疲れたぁ……」
「咲ちゃんガンバ。ゴールはもうすぐだよっ」
 早くもヘばり気味の咲に対し、桃花の声はかなり弾んでいる。
「とーか、何気に元気だね……」
「だって木暮君とお近付きになれるチャンスだもんっ」
 グッと握り拳を作ってそう言う桃花に、咲は曖昧に微笑む。
 木暮君の何処がそんなにいいのかなぁ……。
 そう思っていると、それに、と言って桃花は小声で耳打ちをしてくる。
「早坂センセ、いるよ?」
 そうして目配せをした先に視線を向けると、直樹がすぐ後ろを歩いていた。
「生田。花咲。もっとキリキリ歩け」
 気付けばいつの間にか最後尾を歩いていたらしい。
 これ以上直樹が不機嫌になるのを見るのは正直怖かったので、咲は頑張って歩調を速める事にした。