夕食後の自由時間になると、桃花が真面目な顔で話し掛けてきた。
「ねぇ咲ちゃん。何で泣いてたの?」
「……やだなぁ。煙が目に入ったって……」
「嘘!だって咲ちゃん、あの時煙から一番遠い場所にいたじゃない!」
そう。確かに私はあの時先生を探していて、かまどの前からは離れていた。
「咲ちゃん、本当の事言って?咲ちゃんが苦しんでるの、見てて辛い。何にも出来ないかもだけど、話を聞いて、一緒に考える事なら出来るから。ね?」
励ましてくれてるような、飾らない言葉と真っ直ぐな眼差し。
咲は桃花のこういう、真っ直ぐで優しい、純粋な所が大好きだった。
彼女と友達になれて、本当に良かったと思える。
「……まいったなぁ桃花には。いつもはぽやっとした感じなのに、こういう時だけ鋭いんだから」
少し明るくそう言うと、桃花はふくれる。
「何それぇ。咲ちゃんひどーい!もうっ……で?結局何が原因?」
真面目に聞かれて、咲は簡単にあった事を話した。
「……そっか。その子達に文句の一つでも言いたい所だけど……咲ちゃんはそれ、嫌なんだよね?」
「……うん」
文句なんて、言えるワケがない。
だって先生は、私の彼氏でも何でもないんだから。
「じゃあ咲ちゃん。こうなったら他の子にとられる前にアタックあるのみ、だよ。積極的に自分をアピールしなきゃ」
「で、でも桃花……」
少し強引な桃花に、咲は慌てる。
「ねぇ咲ちゃん、知ってる?早坂センセ、あれでも結構人気あるんだよ?」
「……え?」
困惑する咲に桃花が言ったのは、咲にとって全く信じられない話だった。
「ウチのクラスの子は皆、比較的先生の性格悪いトコHRとかで見てるからそうでもないんだけどね」
うん、確かにそう思う。よく先生の悪口聞くし。
「でも授業中の先生しか知らない他のクラスの子は、クールで格好いいって。ほら、早坂センセって見た目はいいし独身で若いでしょ?だから狙ってる子、結構いるみたいだよ?」
若い、といっても二十六なのだが。
ちょっと待って。
じゃあ、あの時のあの子は。
先生の事が好きなの……?
「負けてらんないよ、咲ちゃん。行こ?」
そう突然腕を引かれ、咲はまたもや慌てる。
「え、行くって……ドコに!?」
「もちろん。先生のト・コ」
悪戯っぽく微笑って、桃花はそう答えた。