探してみると、直樹は一階ロビー傍の自販機の所にいた。

 ――但し数名の女生徒に囲まれて。

「桃花……部屋に戻ろ?私、ここに居たくない」
「咲ちゃん……」

 きっと私、今、凄く酷い顔してる。
 嫉妬に歪んだ醜い顔。
 こんな顔、先生に見せたくない。

 桃花も察してくれたのか、何も言わずその場を去ろうと体の向きを変える。
 その時。
「生田!」

 心臓が。

 止まるかと思った。

 だって。
 私を呼んだ、その声は。
 紛れも無く、先生のもので。
 思わず振り返ると、先生がこちらに来るのが見えた。

 え、嘘。

 何で……?

「生田……と、花咲。丁度良かった。お前等、ちょっといいか?」
 困惑している咲をよそに直樹がそう言うと、桃花がとんでもない事を言う。
「あ、私これからちょっと用事あるんで。咲ちゃんだけじゃダメですかぁ?」

 はぁ!?

 あくまでもおっとりとしたその物言いに、咲は思わず桃花を見る。
 と、桃花は直樹に気付かれないよう、咲にそっと目配せをしてきた。
「じゃあ生田。いいか?」
「ぅあ……はい」
 先に歩き出した直樹の後について咲が歩き出すと、小さな声で桃花が「ガンバ」と言うのが聞こえた。


 連れて来られたのは先生達の泊まる三階。
 ちなみに二階が男子、四階が女子、という割り振りだ。
 さすがに今は自由時間の為、他の先生達は見回りに行っているのだろう。この階だけ人気は無く、やけに静かだった。

「あの、先生。それで、何の用なんですか……?」
「ん?あぁ……本当は別に用なんてないんだ。ただ単にあの輪から抜けたかっただけで。ほら、自分のクラスの奴に連絡事項があるって言えば簡単だし」
「……じゃあ、誰でも良かったんですか?」
「ま、そういう事になるな。……悪かったな、咲」
「いえ……」

 呼び止められて、先生がこっちに来るのを見た時。
 正直言って嬉しかった。
 そうして、少しだけ“何か”を期待していた自分が、物凄く嫌だった。

「しっかしアイツ等もしつけーよな。ったく、ガキが教師との恋愛夢見てんじゃねーよ」

「え……?」
 ボソッと呟かれた言葉。一瞬、聞き間違えたのかと思った。
 直樹の言葉が、深く、深く、胸に突き刺さる。
 顔をまともに見る事が出来ない。
「私、もう行ってもいいですか」
 何も考えられなくて、ただ淡々とそう言った。
 これ以上、傍に居たくなかった。

 ……泣いてしまいそうだったから。

「あぁ……あ、そうだ。目、大丈夫か?もう何ともない?」
「平気です」

 優しくしないで。

「咲?何かあったのか?」
 そう言って直樹は俯いている咲の顔を覗き込む。
「……っそんな風に名前で呼ばないでよ!」
 思わず反射的にそう叫んで、直樹を思いっ切り睨み付けると、咲はその場を駆け出した。

 ……泣いてしまっていた。

 苦しいよ。
 ねぇ、どうすればいい?
 桃花。
 今どこに居るの?