次の日は朝からオリエンテーリングと称した、実質山歩き。
せめてもの救いは涼しい、という事くらいだろうか。
体力の無い咲は案の定クラスの最後尾を歩いていた。
幸か不幸か、咲のすぐ後ろに直樹がいたが、話し掛けられる事はなかった。
ただ一ヶ所。何人も滑ったような跡がある場所があって。
例に漏れず咲が足を滑らせた時を除いて。
「きゃ……っ!」
「っと……大丈夫か?」
後ろから抱き抱えるように抱き止められ、一瞬心臓が跳ねた。
「っ……大丈夫です。ありがとうございました」
だが咲は直樹の顔も見ずにお礼を言うと、その場から逃げるように歩くペースを速めた。
見晴らしのいい場所まで来ると、休憩を兼ねて写生する事になっている。
咲は桃花と並んで座り、ひたすらスケッチに専念する。
……だって早く終わらせてのんびりしたいし。
写生を終え二人で話をしていると、一人の男子生徒が近付いてきた。
「花咲」
「木暮君!スケッチ終わったの?」
それは、桃花が昨日告白して付き合う事になった木暮凍護だった。
咲は彼の噂を思い出して少なからず緊張する。
だが木暮は咲の事は特に気に留めていない様子だった。
「あぁ。花咲は?」
「私ももう終わったよ」
言いながらチラッと自分の方を見る桃花に、咲が行っておいでと合図を送ると、申し訳なさそうに、だがとても嬉しそうに行ってしまった。
その時に木暮がチラッと自分の方を見て頭を軽く下げた事に、咲は驚いた。
実は何気に律儀な良い人?
そういえば桃花は噂自体信じていないみたいだったし。
やっぱり噂ってアテにならないものなのかも……。
そんな事を思って、残りの時間を一人でどうしようかと考えていると、後ろから声を掛けられた。
「あの、生田さん。ちょっといいかな?」
「……?はい……」
別のクラスの人だろうか?知らない男子生徒だった。
皆から少し離れた場所まで移動して、その人が口を開く。
「あの、さ……昨日泣いてたよね。自由時間の時。階段下りて行くの見た」
「!」
まさか、見られていたとは思わなかった。
先生と一緒の場面じゃないだけまだマシだが。
「……別に何でもないよ。どうして?」
悟られたくなくて、咲は笑顔を向ける。
すると彼は少し慌てて、顔を真っ赤にさせた。
「あ、あの、えっと……俺、生田さんの事、前からいいなって思ってて……その、好き、なんだ」
しどろもどろになりながらも彼はそう言って。
「え……」
だが咲は頭の中が真っ白になる。
名前も知らない人からの突然の告白。
何、言ッテルノ、コノ人。
私ハ、先生ノ事ガ……。