――泣きたくなった。

 先生の事を諦め切れない、未練がましい自分に。
 ずっと想っていても、この想いが届く事は無いのに。
 叶わぬ恋。
 迷惑なだけなのに。
 早く忘れるべきなのに。
 いっその事、目の前の彼を。
 他の誰かを。
 好きになれればいいのに。
 もしかしたら、付き合う内に相手の事を好きになれるかもしれない。

 でも。
「ごめんなさい……私、好きな人、いるから……」
 咲には出来なかった。
 それは相手にも失礼だし、何より自分の気持ちに背いてまで、無理矢理他の誰かを好きになるなんて出来ないから。
「本当に……ごめんなさい」
 咲は、精一杯の気持ちを込めて謝る。
「あ、いや、いいんだ。……じゃぁ……」
 そうして去っていく背中を見送って、咲は居た堪れない気持ちになった。


 咲は少ししてから、元いた場所へと戻る。
 するとそこには、心配そうな顔をした桃花が待っていた。
「咲ちゃん!よかったぁ、どこに行ったかと思って心配したよぉ」
「ごめん……ちょっと、告白されてた」
 そう言うと、桃花の顔色が変わる。
「え……それで?」
「別のクラスの人でね。断っちゃった」
 明るく言ってみるが、桃花の表情は暗い。
「咲ちゃん……」
「私、やっぱりまだ先生の事、好きみたい」
 言いながら咲はやっぱり泣いてしまった。
「ダメだね、私、こんなんで……」
 だが、桃花は必死になって言う。
「そんな事ない。全然ダメなんかじゃないよ!気持ちなんて、そんなにすぐに切り替えられる物じゃないもん」
「だけど……」
「本当に好きだからこそ、すぐには忘れられないんだよ。……今は辛いかもしれないけど、無理に忘れる必要なんてないと思うよ?咲ちゃんは咲ちゃんの、今の正直な気持ちを大切にすればいいと思う」
「正直な、気持ち……」
 桃花の言葉が、心に深く染み渡る気がする。
「私、早く忘れなきゃって焦ってた……」
「……ゆっくり行こ?密かに想ってるだけなら先生も許してくれるでしょ」

 笑顔で、今一番欲しい言葉をくれる桃花。
 そう、私は……早く忘れなくちゃ、先生にもっと嫌われると思ったんだ。

「うん……ありがと、桃花……」


 こうして、一泊二日に渡る咲の野外生活は終わった。