嫌な予感はコレの事か……。
「で?何が言いたい」
 どうせ脅迫めいた事でもするつもりだろ、とか思いながら直樹が迷惑そうに聞くと、志保は明らかに優越を含んだ言い方をしてきた。
「え〜?そんな態度、取ってもいいと思ってるんですかぁ?」
「さぁね」
 あくまでも態度の変わらない直樹に、志保は眉を寄せる。
 それでも、写メを絶対的な切り札と考えているのだろう、強気の態度は崩さない。
「これってぇ、問題になるんじゃないですかぁ?」
「問題って?」
「現役教師が高校生に手ぇ出してるってバレたらぁ、下手したらクビじゃ済みませんよねぇ……?」
 だが、直樹は鼻でせせら笑うように言う。
「高校生?相手の顔は写ってないのに、どうやってそれを証明する?」
 直樹がそう言うと、流石に志保は折れた。
 ……かに見えた。

「……誰がこの写メ一枚だけって言いましたかぁ?」

「何?」
「んふふ〜。じ・つ・はぁ……他にもまだあるんですよぉ」
「!?」
 そう言って志保が見せた写真は、直樹が咲の顔を覗き込んでいる所や、咲の頭を撫でているもので。
 そのどれもが――余程注意深く写真を見なければ分からないが――かろうじて一緒に写っているのが咲だと判断できるような物だった。
「相手はハッキリと分かりませんけどぉ……これなら高校生って判別できますよねぇ?」

 ……クソッ。あのババァ……。
 だから一人で行くって言ったんだよ。
 引っ掛け問題みたいにして人の事ハメやがって、必要な物が売り場のどこに置いてあるかきちんと教えてくれさえすりゃあこんな事には……っ!

 そう思って自分の母親を恨んでも、時既に遅し。
 こうして写メを撮られてしまったのだ。

 何かこの場を上手く丸め込む方法はないか?
 せめてあの新聞部の取材がなければ、いくらでも言い訳が……。

 そこまで思った所で、直樹はある事に思い至った。
「……新聞部に俺と龍矢の突撃取材の要望をしたのも、お前か……?」
 新聞部員は、“女生徒達からの要望があって”と言っていた。
 その際に、こういう質問をして欲しい、と言えば、運がよければ欲しい情報は手に入るだろう。
 しかし志保は、意外そうに言った。
「えぇー?そんな要望してないですよぉ。ただぁ、友達とぉ、学校で人気のあるせんせぇ達の突撃取材とかあったら面白いよねーって話してただけでぇ。たまたま 新聞部の人がぁ、それを聞いてたらしくってぇ?ちょーと聞かれた事に答えただけですよぉ?」

 このガキ、確信犯だ……!

 新聞部員がいる事を分かっていて、大声で話してたに違いない。
 そうすれば、確実に興味を持つと確信していたから。
   志保が本当に欲しかったのは、“家族構成”と“親戚”の情報。
 自分が撮った写メが脅しの材料になるか、判断したかったから。

 自分があの取材に関して引っ掛かっていたのは、そこだったのだ。
 普通ではあまりないような質問。
 そこに感じ取った、作為的な内容。
 もっと早く気付けばよかった。