直樹が小さく舌打ちして志保を見ると、彼女はニッコリと笑顔を浮かべていて。

 ……だから嫌なんだ。
 こういう男に媚びるような態度を取る女は。
 一見すると、男心をくすぐる理想的な女なのに。
 その実、したたかで、計算高くて。
 一番厄介な相手。

 まぁ、例え媚びるような態度が素だったとしても、今の直樹はそれを理想とはしないが。

 こうなったら、と直樹は開き直るように言う。
「……それで?その写真がどうした」
 すると流石の志保もこの直樹の反応は予想していなかったらしく、困惑の色を見せた。
「どうしたって、これが世間にバレたら、せんせぇは職を失うんですよぉ?せんせぇだけじゃなくてぇ、ここに写ってる彼女だってぇ……」
 口調はそのままだが、志保の余裕が揺らいだ。
「お前、そこに写ってるのが誰か知ってるのか?」
「……私が知らなくってもぉ、世間に出回った時点でお終いですよぉ」
 一緒に写っている相手を“知らない”とハッキリ聞いて、直樹は少しだけ心に余裕が生まれる。

 一番の危惧は、咲にまで被害が及ぶ事。
 志保の悪意が咲に向く前に。
 何としてでもこの事態を収めなくてはならない。
 手っ取り早いのは、携帯を奪って壊してしまう事だが、それが上手いやり方だとは思えない。

「一緒に写っている相手が、俺の彼女じゃないとしたら?」
「え……でも、親類じゃないんですよねぇ?」
「そうだな。だが、俺の事を何も知らないお前が、それを彼女だと決め付けるのは性急だな」
「か、彼女じゃなかったら何だって言うんですかぁ?これだけ親密そうにしているのに、赤の他人って事はないですよねぇ?」
 強気な態度の直樹に対し、志保はどんどん余裕をなくしていく。

 あれだけ優勢だったのに。
 それは変わらないハズだったのに。
 そんな表情がありありと浮かんでいる。

 本当は志保の優勢は変わらない。
 直樹にとっては致命的な写真。
 だが、直樹がそれをそうと感じさせないような態度を取っているのに、惑わされているだけなのだ。
 その辺りは、年齢による経験の差だろう。

 直樹のハッタリは続く。
「お前の思考の中には、親類と彼女しかないんだな」
「それってどういう……」
「例えば俺の交友関係。両親や姉の交友関係。可能性なんていくらでもある。お前にだっていないか?顔見知りの近所のガキとか」

「……っじゃあせんせぇはぁ、この写真を学校に送り付けられたとしてもぉ、構わないって言うんですねぇ?」

 自棄になったようにそう言う志保に、直樹は内心マズいなと思う。
 流石に咲のクラスを担当している教師なら、気付く人がいてもおかしくはない。
 だが、ここで慌ててボロを出してしまえば、途端に志保が勢い付くのは想像に難くない。
 さて、どうするか……。