「……そもそもお前は何が目的だ?」
直樹はあくまでも面倒臭そうに溜息を吐きながらそう言う。
すると志保は、直樹が折れたと思ったのか、嬉々として言う。
「最初からそう言ってくれればいいんですよぉ。……前に言いましたよねぇ?私ぃ、せんせぇの事大好きなんですよぉ。だからぁ、彼氏になってくれませんかぁ?」
そうしてすり寄ってくる志保を、直樹は振り払った。
「……何するんですかぁ?」
「それはこっちのセリフだ。お前、本当に俺の事好きなのか?」
「好きですよぉ?そう言ってるじゃないですかぁ」
「ほぉ?じゃあ何か。お前は好きな相手を手に入れる為なら、その相手を平気で脅す、と」
すると志保は、可笑しそうに笑う。
「だってぇ、そうすれば私の言う事ぜーんぶ聞いてくれるじゃないですかぁ」
その言葉に、直樹は信じられなかった。
信じられねぇ、この女。
それでよく相手の事を好きとか言えるな。
有り得ねぇ……。
相手を脅して付き合おうなんて、それはもう恋愛とは言えない。
ただの一方的な気持ちの押し付けだ。
ストーカーと同じくらい性質が悪い。
「……脅迫は立派な犯罪行為だ。それにお前が好きなのは、どうせ俺の外見だろ?悪いが、そんな身勝手な相手に付き合う程、俺は暇じゃないんでな」
直樹が嘲るようにそう言うと、途端に志保の顔が強張る。
「何だ、俺がお前に屈したと勘違いでもしたか?」
「な……っ!」
その時だった。
ガチャリと音を立てて、数学教官室のドアが開いたのは。
「「!?」」
驚いて二人がドアの方を向くと、そこに立っていたのは龍矢で。
「ん?どうかしたか?」
その場の雰囲気にそぐわない声に、志保はキッと直樹を睨み付けると、龍矢の脇をすり抜けてそのまま教官室を出て行った。
「……はー」
疲れたように息を吐く直樹に、龍矢は思いがけない事を言った。
「相手の神経を逆撫でするような発言は止めた方がいいぞ。いつか刺されても知らないぞ」
「!?……おっまえ、聞いてやがったな!?」
「入ろうとしたら聞こえてきたんだよ。それなりに声でかかったぞ?」
本当に喰えない奴だ。
室内の様子を分かった上で、何食わぬ顔して入ってきたんだから。
龍矢に対して直樹がそう思っていると、真剣な顔で聞かれた。
「で?どうするつもりだ」
「……どこから聞いてやがったんだ、お前は」
「どこからって言われてもなぁ……取り敢えず、お前が咲ちゃんと一緒のトコを今の子に写真に撮られて脅されてるのは分かった」
その言葉に、直樹は脱力する。
「その時点で入ってこいよ……」
「いや、相手から引き出せる情報は多い方がいいだろうと思ってな。ヤバくなってからでも遅くはないだろ」
確かに、龍矢が途中で割り込まなかったからこそ、志保が咲の事にまだ気付いていないという情報を手に入れる事が出来たのだ。
「……ナイスタイミング」
「だろ?」
渋々と言った感じの直樹に、龍矢はニヤリと笑ってみせた。