直樹の説明に、理事長は暫し考え込む。
その間、部屋の中はしんと静まり返っていて。
理事長がどんな判断を下すのか、固唾を呑んで裁定を待つ。
直樹にはその時間が、とてつもなく長く感じた。
だが実際に、それはものの1分も経っていないだろう。
その言葉は、直樹にとって全く予想もしていない事だった。
「君の事情はよく分かった。それで、君はどうしたいのかな?」
「は?……え、どうしたい、と言いますと?」
「では君は、ただ状況の説明に来ただけだと?」
質問を質問で返したら、また質問が返ってきてしまい、直樹は焦る。
俺が、どうしたい、って?
理事長は何を言いたいんだ。
俺はあの写メが公表された時の事を考えて、先手を打ちに来た、ってだけなんだが。
それを正直に言うと、咲との仲をかえって怪しまれそうだしなぁ……。
そこまで考えた所で、直樹はハッと気付く。
理事長が、どうしたいのか?と聞いてきたという事は。
逆に言えば、力になってくれる、という意味にも取れる。
つまり、大抵の事なら何とかなるという事で。
もしかしたら、この状況をひっくり返す事だって可能かもしれない。
その可能性に掛けて、直樹は尋ねる。
「……この事を公にせず、出来るだけ穏便に事を収める為にはどうすればいいでしょうか?」
直樹のその問いに、理事長はフッと息を吐く。
「それは簡単だよ。第三者が物事を公平に見極めて裁定を下せばいい」
「公平に……と言いますと?」
「それは勿論、問題の写真を見て、女生徒からも話を聞く、という事だ」
「!」
理事長のその言葉に、直樹は内心ドキドキだった。
先に奥の手その2を言っておいて良かったっ!
まさか、こうも早く件の写真が理事長の目に触れる事になるとは思わなかった。
「さて、その前に一つ聞いておきたいのだが」
「な、何でしょうか?」
「その問題の女生徒は、君と写真に写っている相手が、同じ学園の生徒だという事には気付いているのかな?」
「いえ、気付いていないと思われます」
「それはどうして?」
「もし気付いているのであれば、私同様、彼女の方にも何らかの接触があるハズです。ですが、今の所そういった事はないと本人にも確認を取りました」
「ふむ……それならば、学園の生徒という事は伏せて置いた方が良さそうだね」
「はい」
何も知らない咲まで巻き込む事はない。
その事に安堵していると、理事長からキツい一言が掛かった。
「写真の内容によっては、君にも何らかの処罰が下ると言う事を忘れないように」
「……はい」
理事長の言葉に、直樹は若干目を逸らせつつ、返事をした。