5限目の授業の終わり、直樹は予定通り実行に移す。
「じゃあ後で誰か……今日はそうだな、今5限目だから出席番号5番の奴、課題集めて数学教官室な」
出席番号5番は志保だ。
直樹は日付や時間で授業中に当てる人間を決めたりするので、関連する数字を言えば誰も不審には思わないだろう。
時計の秒数で当てる事だってあるし、ようは何でもいいのだ。
志保を呼び出せれば。
そうして直樹はさっさと教室を後にする。
「あとはなるようにしかならない、か」
そう呟いて。
志保が課題を持ってきたのは放課後だった。
恐らくは、その方が直樹と話を出来ると思っての事だろう。
直樹としてもそれは好都合だ。
そのまま生徒指導室に誘導すればいいのだから。
「……遅かったな」
志保が来たら龍矢は席を外す、と事前に打ち合わせていた為、今は数学教官室には直樹と志保だけだ。
「えー?だってぇ、授業の合間じゃせんせぇとゆっくりお話しする時間もないじゃないですかぁ」
二人きり、というチャンスに、志保は馴れ馴れしく話し掛けてくる。
「この間の話ぃ、考え直してくれましたぁ?っていうかぁ、考え直したからこうしてわざわざココに来る用事を出したんですよねぇ……?」
そうしてまたも擦り寄ろうとする志保の横をすり抜け、ドアへと向かう。
「それについては場所を変えて話そう。また邪魔が入らないとも限らないからな」
「分かりましたぁ」
志保は疑いもせずに直樹に付いてくる。
理事長はもう既に生徒指導室にいるハズだ。
「入れ」
そうして生徒指導室に先に志保を入らせて。
理事長の姿を視界に入れた志保は、その場で驚いたように絶句する。
「っ!?」
だが直樹は何も言わず、後から入ってドアを閉め、鍵を掛ける。
「神沼、座れ」
その場に立ち尽くしている志保にそう言うと、彼女が食って掛かってきた。
「っどういう事ですか!?っていうか、この人誰なんですか!?」
「理事長だ」
「り、理事長……!?」
「いいから座れ。……理事長、お待たせ致しました」
「いや、それ程待ってはいないよ。彼女が?」
「ええ」
直樹と理事長のやり取りに困惑しながらも、志保は取り敢えず理事長の正面に座る。
そうして直樹は、ハッと気付いた。
……俺、どっちに座ればいいんだ。
生徒指導室は通常、長机を挟んで椅子が二組ずつ置いてある。
だが、今は空いている席は理事長の隣か志保の隣。
どちらに座るのも、気が引ける。
「……あの、理事長。この場合、どちらに座るべきですか……?」
理事長のいる前で、間違った判断はしたくない。
その為、直樹はそう聞いた。
「君は裁定を受ける側だから私の向い側に、と言いたいが……それでは不都合だろう。早坂先生はそこで」
そうして理事長が指し示したのは、長机の横で。
つまり、三角形になるように座ればいい、との事だろう。
直樹は言われた通り、椅子を動かして座った。