「写真はこれ一枚かな?」
「いえ……他にも数枚」
「ええと……ああ、見れた。ふむ……」
それからの数分、理事長は写真の内容を検分するように、無言で見ていて。
直樹はやはり、それがとてつもなく長く感じられた。
それはもう、数時間前に理事長室で奥の手二つ目を出した後と同じように。
時間を長く感じたのは志保も同じだ。
理事長の考えがいまいちよく分からない。
だから、どんな裁定を下されるのかも、全く想像できなくて。
二人にとって長く感じられた、けれどもたった数分という短い時間を経て、理事長がようやく口を開く。
「……確かに、この写真は教師としては由々しき問題だね」
その言葉に、直樹の表情は若干沈み、逆に志保は笑みを浮かべる。
やっぱり、奥の手その二は通じなかったか?
あの写真は誰が見ても、事前に何を聞いていても、恋人同士にしか見えないと、そういう事か……?
直樹がそんな風に考えていると、理事長は言葉を続ける。
「だが、これが早坂先生の交際相手なら、の話だ」
その言葉に対し、今度は直樹がホッとしたような表情をし、志保は眉を寄せる。
「どういう意味ですか?その言い方じゃまるで……」
「交際相手ではない、と?その通りだよ」
「っ!?」
断言して言われた言葉に、志保は信じられないという表情をして思わず立ち上がると、理事長を睨み付けて言った。
「やっぱり二人ともグルなんですね!?返して!」
志保は理事長から携帯を奪い取ろうと手を伸ばす。
「どうぞ」
「!?」
だが、逆に理事長から差し出されて、一瞬その手が止まった。
「いらないのかな?」
「……っ」
言われて志保は携帯を奪うように掴むと、すぐに写真データを確認する。
しかし。
「……消されて、ない……?」
写真はそのまま残っており、ますます志保は訳が分からなくなった。
呆然とした表情で理事長を見ると、理事長は手を組んで机に両肘を付きながら話し始める。
「さて、君にも分かるように説明しよう。座りたまえ」
「は、い……」
志保が座った所で、理事長は直樹に話を振る。
「さて、早坂先生。あの写真に写っているのは誰かな?」
「……母の友人の娘で、今は私の実家に下宿している子です」
「な……っ!?」
「言っただろう。親類や交際相手以外の可能性があるって」
「で、でも!そんなの嘘かもしれないじゃないですか!?」
志保の言葉に答えたのは理事長だ。
「それについては、既に彼の母親に確認済みだよ。確かに友人の娘をお預かりしているそうだ」
その言葉に慌てたのは直樹だ。
「り、理事長!?母に電話したんですか!?」
「おや。君の言葉だけを信じる訳にはいかないからね。確かに君と二人で買い物に行かせた事があるとの証言が取れたよ」
ニコニコニコと。
人の良さそうな笑みを浮かべる理事長に、直樹は気が気じゃない。
あのババァ、余計な事喋ってないだろうな!?