取り敢えず、携帯の写真データを消した事を確認してから、志保を先に帰す。
 そうして直樹は理事長に深々と頭を下げた。
「理事長。お手数をお掛け致しました」
「いや、構わないよ。ところで早坂先生」
「はい、何でしょうか?」
 理事長は相変わらずニコニコとした笑みを浮かべながら、とんでもない言葉を放った。

「実際の所、彼女とはどういう関係なのかな?」

 当然、その言葉に直樹は固まる。
「――っ!?」
「いやね?あの写真はやっぱり見る人が見れば、相手がただの昔から馴染みのある女の子、というだけには見えないんだよ」
「あ、いや、その……」
 何かを言おうとするが、直樹は何も思い浮かばない。

 ヤバイ。
 これはヤバイ。
 ヤバすぎるだろ……!?
 どうする俺。
 どうすればいいんだ、俺!?

 ダラダラと冷や汗を流しつつ、何も言えない直樹に理事長は続ける。
「大体、君の表情が物語っている。普段とまるきり違うからね。普段の君を知っている人物が見れば、こんな表情も出来たんだと驚く事だろう」

 それは、まぁ、自覚はしている。
 咲と2ショットの写真を見た時に、自分の表情に自分で驚いたくらいだから。
 たまにお袋とか姉貴にも指摘をされるし。……咲のいない所で。

「君に好意を寄せている者なら、余計に気付くだろうね。君が相手をどう思っているのか」
「……母は、何か?」
 一瞬、母親が理事長との話の途中で気付かずに口を滑らせた可能性を考えて、直樹はそう聞く。
 だが、理事長の言い方からして恐らくは写真を見て疑問に思ったと見て間違いないだろう。
 案の定、理事長は首を横に振った。
「何も。だからこそあの場でも言わなかったのだし、今こうして君に確認している」

 言うべきか言わざるべきか。
 相手は理事長なのだし、言わない方が賢明だ。
 隠し通さなければ咲を巻き込む事になるのだし、それだけは絶対に何があっても避けてやると意気込んでいたのだし。
 なのに。
 今はそれが得策とは思えない。
 問題を解決するのに力を貸してくれた訳だし、人として誠実に接した方がいい気がする。

 直樹は意を決し、口を開く。
「交際しています。彼女と真剣に」
 すると理事長は、意外にも驚いた顔をした。
 そうしてククッと笑った。
「まさか、そこまで馬鹿正直に言うとはね」
「……は?」
 直樹は思わず呆けてしまう。

 もしかして俺、何か早まった……?