「で?結局どうなったんだ?」
 次の日、直樹が学校に行くと、早速龍矢がそう聞いてきた。
「あー……まぁ、何とかなった」
「じゃあ写真はちゃんと消去したって事か」
「ああ」
「なのに、浮かない表情なのはどうしてだ?」
 龍矢の指摘に、直樹は盛大に溜息を吐いた。
「……理事長だよっ」
「理事長がどうかしたのか?」
「にこにこのほほんとしてるかと思ったら、スゲー食わせ者だしよ」
 直樹がそう言うと、龍矢は呆れたように言う。
「当たり前だろ。そうじゃなきゃ月羽矢グループなんて巨大組織、纏められる訳ないだろう?」
「ぐっ……それは、そうだけど……」
 言葉に詰まる直樹に、龍矢は更に聞く。
「で?そう言うって事は何かあったんだろ」
 そう聞かれ、直樹は不承不承ながらも話し合いの流れと、それが終わってからの事を話した。


 話を聞き終わった龍矢は、呆れたような視線を直樹に注ぐ。
「な、なんだよ」
「お前、それは自業自得だろう。普通言うか?理事長に向かって“生徒と真剣交際しています”なんて」
「い、言わなきゃいけない気がしたんだよっ!」
「……まぁ確かに今回の場合、隠し事しない方が身の為だったろうけどな」
「?どういう意味だよ」
 直樹が怪訝そうにそう聞くと、龍矢はそれに問いで返す。
「理事長は巧く話を纏めて、相手を納得させて写真を消させたんだろ?」
「まぁ、そうだな」
「それだけ話術の巧い人が、お前の母親から何も情報を引き出せていないと思うか?」
 そう指摘されて直樹は考える。

 確かに、冷静に考えれば言葉の端々に違和感があったような気はする。
 やはりあの質問は、確信を持って敢えてしてきたのだろう。
 俺――早坂直樹という人物を試す為に。

 “嘘や誤魔化しで偽る事も時には必要”と理事長は言っていた。
 という事は、もしかしたら普段から理事長自身もそうしている可能性があるという事で。
 今回の件でもしていかたもしれないし、していなかったかもしれない。
 まぁ、知っていて言わなかった場合は当て嵌まらないが……。
 それは本人にしか分からない。

「やっぱりとんだ食わせ者だ……」

 直樹がそう呟くと、龍矢は首を傾げて言う。
「そうか?自分に疚しい所さえなければ、あれほど心強い味方はいないと思うが?」
「生徒と付き合ってる時点で十分疚しくないか?」
「別に?結婚前提の真摯な交際と認められれば罪には問われないんだ。世間の目は厳しいだろうが、恥じる事はないだろう」
「結婚前提ってお前……」
 開き直ったようにいきなり将来の事を言われ、直樹は戸惑いを見せる。
「お前は違うのか?」
「……まだそこまでハッキリと考えてねーよ。ま、咲を手放すつもりはねーから?将来的にはそうなるだろうな」
「だろ?」
 ニッと笑ってそう言われ、直樹は苦笑を返す。
「ま、無事解決って事でいいんじゃないか?」
「そうだな」
 そう言って直樹は軽く息を吐き、今日の授業の事に頭を切り替える事にした。